第6話-特異体質

「オレらに会いにきてくれてサンキュー!今日の夜も、キミを幸せにする。覚悟はいい?」


「早く会いたくてうずうずしてたんだよねっ、ねぇ、皆んなは??オレにドキドキする準備しててね」


「来てくれてあざっす。待ってたぜ」


「はぁ。…やっと会えたね。こっちおいで」




夜、12時に魔法が掛かる。

キラキラとした道に導かれ、来てくれる。目を瞑ればそこは、舞踏会。パーティーにやってくる多数のお姫様と、持て成す…、


王子様。


オレたちはその時間、彼女らの王子様になり。時には騎士になる。


けれど、現実は煌びやかなシャンデリアが天井からぶら下がる。なんて事はなく。もちろんオーケストラが楽器を奏でる訳でもない。


これは夢を見せる、オレたちの世界。




決まった時間にアプリで、グループメンバーと一緒に配信を行う。


普段の配信では顔をあまり出していない為、声のトーン、話すテンポ、会話の内容、全てに神経を張り巡らせつつ、配信している自身が楽しむ事で聞きに来てくれているリスナーへ癒しを提供する事ができる。


いかにもダラダラ配信してます、って配信も魅力的ではあるが。忙しい時間の合間にわざわざ聞きに来てくれている子達が、また来たい。来てよかった、


そう思える時間をプレゼントしたくて、場を盛り上げつつ進めていく。


因みにこの配信アプリ、キャノンは1枠30分


延長コイン10枚あれば、さらに30分追加で配信できるというシステム。個人で枠を開く時には特技を活かし、配信を行なっている。


例えばオレは歌配信

大賀はゲーム配信

りとは声劇や雑談配信

佳名斗は凸待ち配信や企画など。




「今日はリスナーの子達からもらった質問に対して、答えて行きたいと思います。て、言っても公式のアカウントに質問を投げてくれてる子と、個人に質問投げて来てくれてる子で別れるから、」


「はいはいっ!!折角だし最初は公式にきてる質問からで良くない?」


「おけおけ。んじゃ、何個か選んでちょーだい大賀きゅん」




司会をするのは決まって、りと。


リーダーだから、と言うよりはりとの才能がそうさせる。と言った方が正しいのか、話しを振るのも違和感がない。


基本大賀とオレって前に出るタイプじゃないし、りとの存在はグループの中でデカく、次に、りとの話に乗っかるのが上手い佳名斗はその場を明るくする力がある。とは言っても大賀は大賀で、


「うぃっす。えーっと…◯◯県の、たにゃにゃんさんからの質問です。オレらのパンツはブリーフ派、ボクサー派、トランクス派どれですか、


だそうです。」



「うぉいっ!なんでその質問を選んだ!?なぁ!?」




ときどき大賀はボケをかましてくる無愛想キャラで人気は絶大。


ツッコミを入れたりとですら笑いで声が震えていて、佳名斗は大爆笑。

パソコン越しで、声しか互いに聴こえていない筈なのに、全員が今浮かべている表情が簡単に想像できた


きっと、りとは口元を手で押さえながら笑いを堪えてて


佳名斗は腹を抑えて涙目


大賀はいつもと変わらない、無愛想



「大賀の保護者は誠なんだから、責任とってー」


「え。オレのパンツ、言えって事?」


不意にりとから話題を振られ、返事をすると…





–––––いゃぁあああ、誠たんエッチ!


–––––知りたいっ!ぜひっ!


–––––むしろ教えてくれるの誠くん!?





オレたちの枠に来ていたリスナーが、似たようなコメントを打ちまくり、


しまいには、佳名斗まで大騒ぎ、



「なっ、なっ…なっ、ぱ、パンツなんて教えちゃいけませぇえええええん!!!!」


夜中の12時回った時間、

いきなり発狂しだす佳名斗、

そして何故か悶えるリスナーたち。

空気を読まずに大賀の「佳名斗うるせぇ」には、ひどく同意した。


配信、リスナー問わず。大体の人がイヤホンをさしている中での、雄叫び




明日はきっと皆んな、耳鼻科行きに違いない。


そう1人思いながら、笑ってしまった。





◇◇◇


「今日も来てくれてありがとう!楽しかった。皆んなは楽しめた?明日もまた会おうなっ」


「もう遅いからいい子に寝よーね?まったねー!」


「また明日こいよ。待ってる」


「夢で会えますように」




最後の言葉をりと、佳名斗、大賀、オレの順で言う

その間もコメントが止まる事はなく、新しいコメントが次々と流れていく。


配信が終わる1分前から4人でコラボして歌った音楽が流れ始め、配信が終わる。無事に配信が終わった、という安堵かんと高揚感。


楽しかった筈なのに、終わる頃には物足りなくて寂しいと毎度思えてしまう。そんな中、コメント欄に「延長してー!!」なんて、有り難すぎる言葉を見つけて、胸が暖かくなる



いつもその繰り返し。


そして、画面終了になり画面が暗くなり配信が終わって、画面がホーム画面へと切り替わり、がこちらを見つめていた。


オレが瞬きをすればその子供は目をとじ、


口角を上げればその子供は口角を上げて笑う、




座っている椅子は中学から使っている椅子にも関わらず、今はその椅子に座っていても床に足がつく事はなく、


足を左右に動かせば、宙を蹴る羽目になる。






オレの病気、いや、弱点はこの体質。


それは夜になると体が縮む特異体質。







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