第5話-閑話。待ちぼうけ


「誠、おーそーいー!寝てんのかねぇ?」


いかにも教科書が入っていなさそうな鞄を振り回す、1人の男。


頬を膨らまし、スマホを弄り出す姿は残念ながら高校生には見えず。ましてや、前髪をファンシーなヘアピンで止めているあたり、幼さが目立つ。


「佳名斗、電話した?」


「今してんのー、…って、出ねぇし」


何度目かのコール音の後、留守番電話へと切り替わる。機械音を聞き流した後、諦めたかの様にスマホの電源を落としていた。


「とりあえず先に行っとくか?」


と、提案したのはリーダーである、りと。


普段よりテンションが低いのは寝起きで、低血圧だからだ。スイッチでいうならOFF状態。


本人は特に意識していないらしいが、仕事モードに入ると頭の回転が早く、切り返しが上手い。誰もが舌を巻くほどだ。と、いっても殆ど一緒にいるオレらはどんなにりとがスイッチをオンにしていても、微かな表情で何となくだが察せられるようになった


きっと、どんなに眠くても学校の敷地に入れば『ミラのりと』になるのだろう


オレたち視点ではただ眠そうな、りと。なのだが、これは受け取り方に問題がある、というよりも…


感情のコントロールがただただ、りとが上手い様な気さえする。




誰もが知っているミラは、


リーダー気質のりと

テンションマックスの佳名斗

弟キャラ誠、と言うふうにキャラ付けされている


だが、実際は。

ずぼらな、りと

しっかりものの佳名斗

不器用な誠


が、素の状態。あぁ、そういえばオレのキャラは無口、だったか。


「どうしよ、も、もっ、もしかして誠、熱中症で倒れてるんじゃ…」


「いやいや。ふつーに学校行ったんだって」


「もうっ!なんで言い切れるんだよ、もしかしたら倒れてるかもしんないじゃんっ、もしかしたら襲われてるかもっ!?」



歩き出した佳名斗とりと。つられるようにして一歩後ろをついてゆく。


話しながらだんだん声がでかくなる佳名斗

それを冷めた、というか面倒くさそうな顔で見ているりと。


相変わらずミラでの性格と真逆すぎて、一周回って面白い。これがミラのメンバー。




「やっぱ心配だからオレ、誠ん家いってくる!」


Uターンしようとする佳名斗に、止める元気すら無いのかお手上げ状態のりと。顔には『もう好きにしろ』と書いてあった


「てか、オレらアイツの家知らねぇよな」


ぽつり、と独白を吐いたのは他でもないオレ自身で。一緒にいる時間もそこそこ長く、絡みも有るのだが意外な事にオレは…、オレたちはあまり誠の事を知らないでいる。



と言うか、


「う、…うわぁあああん!誠っちって、秘密主義者なんだもんっ!!家の場所知らないじゃんっ」


「確かに。誠ってあんまり自分の事話さないよな」


「え、なに、オレらまさか嫌われてる!?」


「それはないんじゃないか?嫌いならグループ脱退してるし。んでも、…距離は置かれてる、よな」



誠は時折、澄んだ目で遠くを見つめている。


気付けば1人を好むクセがあった


それに誠は自身の話しを話す、と言うよりかは聞き役に回るのが得意で。関心を持たれ、何かを聞かれても意図的に躱している場面が何度もあった



知られたくない、

近づけたくない、


そういった感情なのか、否かは誰にも分かる筈がなく。本心を知っているのは本人だけ。


「オレ、誠も大賀もりとも大好き。だから、もし誠が…このメンバーの内誰かが悩みとかさ、打ち明けてくれたら」


佳名斗が不意に言葉を切った時、


生温い風がオレらの間を吹き抜けていった。






そして、再び佳名斗が言葉を発した後。


オレも、りとも小さく頷いた。




–––––––…その時は全力で支えようね。




温かい言葉を胸の奥にしまって。

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