第3話-誠の1日
1年4組、出席番号36番、
席は窓際の後ろから二番目。良く、窓際いいなぁ。なんて思われがちだけど、冬は隙間風が入って来て寒いし、夏は紫外線がただただ痛いだけ。
窓際になってテンション上がったのはその日だけだった。唯一、窓際で良かったと言えるのは、3月、4月に咲く桜が上から見下ろせて絶景って事くらい
校門を潜ると桜の木が両サイド咲いていて、それを見上げると、桜の花びらの色と空の色がマッチして自然と笑みが出る。無意識にケータイで写真を撮った記憶はまだ新しい。
『…ねむ』
今の季節は春から夏に掛けての、移行期間。
吹く風は春風というよりも、夏の匂いを乗せてくる
あぁ、その前に梅雨がやってくるんだっけ
しとしと降る雨の音で朝、目が覚めるのは嫌いじゃない。雨の匂い、なんて言っていいのかな
あの匂いもオレは好き。
『そう言えば遅いなぁ』
ふと、頬杖を突きながら思い出すのはいつものメンバー
まぁ、オレが最年少ではあるんだけど、
「きゃぁあああっ、りと様ぁあああ!」
「佳名斗くんこっち向いてぇええっ」
「大賀様すきぃいいいいい!!!」
噂をすればなんとやら。
一気に騒がしくなる校舎内。身を乗り出して、歓声を上げる女子たち。
頬は蒸気し、瞳は潤み。
黄色い声が飛び交った。他のクラスも同様に、窓側に身を乗り出し手を振っているに違いない。
そう、
とは言っても、これも偶然が偶然を呼んだだけ。
りとと佳名斗は2年生
大賀とオレは1年生
誕生日順で、大賀が早く。オレが後、
だからグループ内ではオレが一番年下。
そっと、視線を下に向ければ3人の姿が視野に入る。未だ眠そうなりと、朝から元気な佳名斗、仏頂面な大賀。
窓から身体を乗り出す女子生徒に手を振る佳名斗
進む足を止めたくなくて、そんな佳名斗の首根っこを掴み引き摺って歩くりと。
後ろを遅れて歩く大賀。
「見てみてっ、佳名斗くん引っ張られてる」
「かわいいよねー!!」
「同じ学校で良かったぁああ」
「ほんとそれっ!毎日見れるもんっ」
近くで外を見ていた女子達の会話は嫌でも耳に入り、そして最近知った事がある。
それは、
『あ、』
呆れ顔で下を見ていたオレに気づいたのか、大賀と目があった。無意識の内に溢れた声は自分のもので、
それを知ってか知らずか、大賀は舌をちろりと出してそっぽを向いた。
あっかんべー。
効果音をつけるなら、こんな感じかな。うわぁ、腹立つ。なんて思っても口にはしないけど。
「きゃあぁああ!見た!みた?」
「誠くん見つめて下出したぁっ、意味深っ」
知りたくなかったけど、ファンの間でオレたちはカップル設定というのが存在するらしい
例えばりと×オレ
大賀×佳名斗
佳名斗×オレ
りと×佳名斗
大賀×オレ
聞いて一番耳を疑ったのはオレの総受け、という希望者の妄想話し。逆に腐った話が嫌いなファンは箱推しだったり、個人に対して応援してくれる子達。
ファン、といっても応援の仕方は様々。
で、なんでそんな腐女子たちがオレらをそういう目線で見るか、というとこれにはちゃんとした訳がある。それはミラがシェアハウスしている、という噂のせい。
どこから出てきた噂話か知らないが、あながち間違いではないのも確かで、
実際、りと、佳名斗、大賀は一緒に住んでいる。
一緒に住んだら活動も楽、それがりとの意見でマネージャーも即オッケーを出した。でも、オレだけは首を縦に振らなかった。
理由は一つ、
オレの体の病気について、だ。どうしても知られたくなくて、オレは適当な言い訳をして断った。
そんな事があり、気まずくなるかと思いきや。りとがオレに言ってくれた言葉は優し過ぎるもので、
–––––じゃ、一緒に登校できる時はしよーな
眩し過ぎる程の笑顔と、温かい言葉だった。
「今日は出るの早かったんだな」
ぼぉっと、外を眺めていたオレに影が落ち。不意に掛けられた声は、聞き覚えのあるハスキーボイス
ついさっきまで外を歩いていた筈のメンバーは、そこには居らず。その内の1人、
大賀がオレを見下ろしていた。
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