第114話 和魂

 瓦礫を背に金小僧が胡座をかいて座っている。

 朧げな燐光でその身体は薄い緑色に発光している。


「ここ掘れ〜ここに埋蔵金。埋もれて金が泣いておる〜」


 座敷童の歌に金小僧の言葉合わさって不思議な雰囲気が漂う。


 妖怪金小僧は埋もれた宝、金銀の念を代弁する金の妖精の様な存在。


 獣人インスマウス人と化した元の住人達の住居や会社や施設跡に埋もれた宝が地下に閉じ込められた怨念を噴出させた現象となる。


 宝、金銀、お金、人たる生業を営む者が生きている間、常に追い求め続ける物欲のシンボルの一つ。


 物欲の想いは持ち主が消えても溜め込んだ額に正比例して強さを増す。


 ここに埋もれている見つけてくれ、見つけてくれと想いが募って妖怪金小僧を出現させる。


 降りしきる小雨の中で念仏のように声音は響く。


 青い人魂が街の灯りとなって夢幻の団欒を醸し出す。


 聴こえてくる家族の団欒、子供達の笑い声、恋人達の楽しく紡ぎ合う声。


 生命在りし日の想いは残る…。


 青い人魂の灯りは遠くは<ポツリポツリ>とパルス電磁波境界まで広がって

 行く。


 青くまたたく街の灯りの中にオレンジ色の光の玉が<フッ>と浮かぶ。


 それは青い人魂が幾つか融合してオレンジの火の玉と化した姿。


 そうそれは、和魂にぎみたま。

 霊体を昇華させた想いの集合体。

 和魂にぎみたまは穏やかなる境地、悲哀を伴うが静的な穏やかさ。

 相反するのは怨念、荒ぶる想いの集合体は 荒魂あらみたまとなる。


 徐々に人魂は 和魂にぎみたまに集合する。


 街の灯りも青い瞬きからオレンジ色の夕暮れの色彩に映り行く。


 和魂にぎみたまは人魂の様に自縛ではないのでひとつ所に留まらず浮遊を始める。


 僕はヒンデンブルグ号を真田丸の城壁上に降下着地させてその物哀しい風景を遠望していた。


 理不尽に蹂躙された生命。


 令和現代で目撃した寒村での空自異形種殲滅ストライカー部隊ワイルドウルフ隊の激戦を重ねて繰り返されるこの理不尽に憤りで理性を失いそうになる。


 悲哀に満ちたオレンジの火の玉が<ゆらゆら>とパルス電磁境界まで漂い。

 そしてパルス電磁境界の向こう側にすり抜けて移動した。


 う〜〜、移動した!!


「これだ!」


 後ろから同時に声がした。

「まさにまさに!私も見ました」と小豆公望が声を上げる。


 いつの間にか、敷島隊長と斎藤隊員、エミリア、ギヒノム卿、小太郎、

 マリア、ニュートン・ニューヨーク教授、

 そしてハクア、ちるなが後ろに集まっていた。


「成る程新見地です、どの様な物理、波動、更には霊体をも通さない

 特性に通過できるエネルギ体があるとは…」

 マリア・オルシックがブロンドの髪をかき上げながら感嘆する。


 ニュートン・ニューヨーク教授が続ける。

「非常に興味深い!霊体である魂が昇華され集合すると

 和魂にぎみたまとなり想いを持つて浮遊する」


「これは幽体と言えどもエクトプラズムとして半物理状態を持つ状態

 を思念という意思を凝縮した形態とする事で新たなる状態を形成す

 る」


「この形態を持つ者らを儂は知っておる!長年の日本研究のテーマの

 一つじゃて…、それは妖しき妖怪じゃ」


 眼下の戦場跡の瓦礫の中に彼らは何かを想い、何かを感じ佇んでいる。

 日本には古来想いを繋げる精神文化が成熟した文明があった。

 その副産物、いや昇華した姿として妖怪も共に暮らした。

 今では人の記憶の奥底に仕舞われてしまった輝かしい文明があった。


 僕は決めた。


 課題2 境界の向こう側にはパルス電磁境界で陸上の戦力投入が出来ない。

 → パルス電磁境界は一瞬でも切る訳にはいかない。

 亜空間ゲートを展開するにも展開出来る安全な場所を確保する必要がある。

 この境界を通過出来る仲間に託す事になる。


 妖怪達に託す!

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