第113話 灯火 ともしび
<カチカチカチカチ>
夜の23時。
布団に入った僕は夢への誘いを待つ。
暗闇の中で睡魔が訪ずれるのを待っている。
<カチカチカチカチ>
やけに時計の音が耳に入る。
秒針が時間を刻む姿を瞼を閉じて想像する。
もう直ぐだ。
ちるなが補助してくれるので眠りに入ればスムーズにチルナノーグ島へと
行ける。
ちるなも僕と夢で落ち合ってあの世界に一緒に戻る事になる。
<カチカチカチカチ>
時間を刻む音の中、僕は夢の世界へと沈んで行く。
気がつくと、
僕とちるなは夢を扉を潜り抜けヒンデンブルグ号のゴンドラ部分の空中司令室に令和現代から戻り出ていた。
そこには将棋盤を囲む敷島隊長、小豆公望が居た。
小太郎とチャイニーズ女暗殺拳士達も背後にいつの間にか居た。
将棋盤の二人に声をかける。
敷島隊長が戦況を説明してくれる。
戦局は既に撤収状態であり獣人の生き残りの他に人間の生き残りも多数保護できたとの事。
敵状況はこちらがキノコ型ゴーレムを配置して最前戦の結界としたパルス電磁境界線から海側の港湾までの間に獣人インスマウスを封じ込められた。
ハイドラも同じくパルス電磁境界線の外に追いやった状態となる。
最後の総仕上げはパルス電磁境界の向こう側の獣人インスマウス人の殲滅とハイドラのトドメを指す事。
この掃討で今回の作戦は完了する。
パルス電磁境界は弾丸のような物理個体も光子エネルギーのようなエネルギー波も全て遮断する。
効力のある境界は地上から上空300メータ。
地中には効力はない。
課題は、
1 パルス電磁境界から先は港湾へと続くエリアとなり海までの距離は5キロ。
海に入られると海路逃げられてしまう。
→ 要は海までの陸上5キロ圏内で掃討を成功させなければならない。
2 境界の向こう側にはパルス電磁境界で陸上の戦力投入が出来ない。
→ パルス電磁境界は一瞬でも切る訳にはいかない。
亜空間ゲートを展開するにも展開出来る安全な場所を確保する必要がある。
この境界を通過出来る仲間に託す事になる。
3 海上より迫りつつある新手の敵への対処。
→ これは既にギヒノム卿に依頼済み。
1と2の課題について対応する事にする。
先ずは境界の向こう側に潜入して亜空間ゲートを展開する場所を確保する。
そのための潜入メンバーを選抜しないといけない。
パルス電磁波が展開するフィールドの特性は極めて優秀で物理的な個体は通さない。
エネルギー体の様な波動も相殺されて通さない。
幽体、エクトプラズムも電磁波の網は通さない。
通過出来るものがない無い尽くし。
まさに難攻不落な城壁が内にも外にも同様に効果を発揮する。
エミリアの技術力とエミリアが招へいしたオカルト特務機関ヴリルを統括する“マリア・オルシック”からもたらされた超科学文明地底世界アガルタの技術とエミリアの錬金術でミスリル鉱物の波動光を増幅する技術とが融合した全く新しいバリア技術が生まれた。
こちらで生み出した技術ながら素晴らし過ぎて付け入る術もない。
さてさて困ったとダイヤゴーレムが投影してくる瓦礫とした街並みの映像を眺める。
パルス電磁波境界のこちら側の瓦礫に雨が<ぽつぽつ>と落ち始める。
小雨程度の枝垂れ雨の中、<ぽわーん、ぽわーん>と青白い炎が灯り揺らめき始める。
想いを残して突然の死に見舞われた港湾都市『なにわ』の住民たちの残留思念が青白い人魂となって具現化している。
青白く物哀しい温度を感じない炎が<ゆらりゆらり>と風もないのに揺れる。
<ぽわーん、ぽわーん>と人魂の数はどんどん増えて行き瓦礫の街並みを覆い尽くす。
残留思念は犠牲となった人や獣人が亡くなった場所付近で揺らぎ立つ。
それはまるで夕闇の中にポツリポツリと街の灯り、家族の団欒の灯りが灯る風景と見間違える。
もうそこには団欒の笑いや賑やかな声は二度と聴こえ無い。
吹き荒ぶ風に青白い炎だけが名残惜しそうに揺らぐだけ。
そんな悲しみのレクイエムの中に、青い人魂に寄り添う様に座敷童が立っている。
座敷童が歌を口ずさみ始める。
「
「
「
「人子の灯火、儚きかぎり、瞬きひとつで消え入りて〜
さざれ石」
明るい悪戯好きの座敷童の頬を一筋の涙がつたう。
いつの間にか座敷童の背後には救助作業を行なっていた妖怪が立っている。
網剪、雨女、雨降小僧、糸引き娘、小豆とぎ、白粉婆、児啼婆、小坊主、牛蒡種、米つきわらし・・・。
雨降小僧が小雨を呼び、座敷童の頬の涙を隠す。
多分、他の妖怪等の涙も隠したのかも知れない。
小雨の中、また新たな妖怪が現れる。
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