第105話 戦場。

 なぜ戦う。

 それは信じるものを守る為。

 体勢に操作され無理強いの戦でなければない程に心の葛藤は大きい。

 自らの意思でこの戦場に立つ。

 白銀の姫君。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 命ある者は生命の灯火の美しさに魅了され狩らずにおれなくなる幻惑のミスト。

 憎しみではなく生命に魅了され奪い合う。

 ある意味残酷の極み。


 白銀のゴーレムの背後で天狗八仙のゴーレムの動きに俊敏さが増す。

 天狗の姫君の哀しみを伴うこの鎮魂歌を早く終わらせる為にも戦鬼せんき

 に徹する。

 石垣の上から大戦場を見下ろしながら天狗達が慟哭し叫ぶ。


「姫よ、お辛い思い申し訳ござらん」

「すみませぬ姫、この戦場は酷でござる」

「我等に姫のお出ましを願わぬまでの力があれば」


 コンテナの側に立ち戦場の上空に浮遊する白銀のゴーレムとシンクロしながら

 白鴉ハクアは涙を流し続ける。

 樹海前での攻防にも仲間の無念を想い涙したハクア。

 だが毅然とした表情を取り戻し姫、いや頭領としての責務を全うしたハクア。

 彼女の内なる想いは最初に流す涙が物語る。

 本当は争い、傷付け合い、生命の奪い合いを良しとせぬ心優しき姫君。


 世の混沌の中、仲間を信ずる稀人の為に一命を賭す覚悟はあれど実際に生命が

 消え入る情景は耐えられない。

 耐え難きを耐え、守るべきものを守るという覚悟で彼女は生き抜く。

 偽善な言葉だけの覚悟も何もない輩の頭上高く、ストレスなどと言う弱音の逃

 げも自身で律し命を懸けてその脈動で天高く飛翔する尊き鴉天狗の姫君。


 従う者が命を投げ打つ事を厭わない尊攘の姫君と知らず育っている。


 頬を止め度もなく流れ伝う涙を横からハンカチを持つ手が優しく止め受ける。

 その手はちるなの手だった。


 先程まで戦場で戦い挑んで来る獣人インスマウス人の群れをケルト式戦場の振る

 舞いで余す事なく馳走して駆け巡っていた非情の戦女神モリガンの姿からちるな

 の姿に戻っている。


 ただハンカチを持つ手は戦女神モリガンの真っ赤なドレスと同じく真っ赤な血で

 濡れている。


 静かにちるなは語りかける。


「ハクア姫、その涙を忘れる事なく心に刻み、強き心で生きるのです」

「貴方の涙で力持つ仲間は命を燃やし、弱き仲間は命を救われ安寧の日常を得る」

「悠久の時空を経て我らが目指す王国は容易く実現出来ません」

「涙しながらも剣を振るわねばその一瞬の怯みで全てを失います」

「涙の帳で視界を見失わぬ様に心するのですよ」


 語り終わるとその場を去り戦場に赴く前に僕の所に立ち寄り、天狗軍の後方待機と

 自衛隊ワイルドストライク部隊の出動要請を願い出る。


 四方で寛ぐチャイナ美人の輪の中でギヒノム卿は

「ハクアちゃんはお茶の時間だね」

 と同意する。


 勿論、僕ももう潮時かと同意。


 ちるなはニコリと微笑み、大鴉モリガンに変異して戦場へと飛び去る。

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