第93話 最期の時に見る物とは。

 大きなツノが鼻の位置にある。

 サイだ。

 サイの獣人。

 大きな体は分厚い鎧の様な皮膚で覆われている。

 そのグレーの集団が壁の様に立ち塞がる。

 こちらにツノを向けて照準している。

 今にも突進して来そうに見える。

 片足を後ろにかきながら闘牛の牛の様に鼻息を荒くしている。


 一番大きなサイ獣人がスローモーションの様に駆け出す姿が見える。

 真正面に居たインスマンス獣人が突き上げられて空中高く吹っ飛ぶ。

 どんどん加速して来る。

 背後には他のサイ獣人も付き従って猛進して来る。


 前面の壁。

 後ろからの黒豹の追撃。


 いくら忍者と言えどもこれは絶体絶命。


 小太郎は襲い来る周りのインスマウス獣人を斬り捨てながら不思議と頭の中では平穏な思考でこれまでの事を回想していた。

 これが人の最期の回想となる走馬灯というものか。

 沢山の想いが時系列関係なく一挙に押し寄せる。

 本当に最期の時なんだろう。


 思い返すと風魔の棟梁として母より受け継いだこの一族。

 風魔一族の本家一族は代々女性が踏襲する。

 自分もこれに倣い踏襲した。

 それは元服の年の事。

 もっと遡る。

 もの心つく頃辺りに大きな記憶の渦がある。


 その渦を凝視する。

 私は母から産まれていない…。

 そう私は31歳だった。

 江戸城主である太田道灌様を主と仰ぐ風魔一党の頭だった。

 私は摩利支天の加護を背にする無敵の忍びとして道灌様の為に関東を駆け巡った。

 有頂天であった。

 残心が無かった。

 その迂闊な緩みに主君を誅殺された…。

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