第91話 異変。
瀕死状態で海に向かって逃げるハイドラ。
再生増殖の糧となるインスマウス人が居ない事、獲物を狩る触手も引きちぎられたハイドラには再生の手立てがない。
<ボトボト>と緑色の粘液質の液体をナメクジが這った後の様に後引きながら<ズルズル>と這いずって行く。
もし痛覚神経があるならば全身を業火で焼かれて爛ただれた状態はその痛みだけで死に至る程の激痛と思われる。
ただただ逃げるのみ。
小山ほどもある体の大きさ故に哀れな姿が際立って見える。
小太郎はハイドラの真横に2キロ程距離を開けて並走しながら次の爆炎符の準備をしている。
生かして返さないつもりだ。
忍びの守本尊である摩利支天を主神と崇める風魔一族の本領はゲリラ戦法。
抜き打ちで大ダメージを与え付かず離れずでダメージを与え続け敵を削り狩る。
爆炎符の準備に勤しむ小太郎は気付かない。
異変が更に起きつつある事を…。
それはハイドラの体から<ボトリボトリ>と滴り落ちている緑色の粘液質の液体が流れて行く先で起きた。
液体は低い方に流れる。
小山の大きさの巨体から流れ出る液体は川のような流れとなり流れ続ける。
その先は瓦解した『なにわ』の街並みの瓦礫の下へと向かう。
瓦礫の下には野生の感覚が退化していない獣人が異変が始まった早々に退避した地下シェルターがあった。
様々な人種、種族が交流する貿易港湾都市故に獣人種も多種多様に住みついて居る。
人は力は非力だが組織だってシステマチックに社会構成を整え集合体として力を発揮する。
獣人種は個の力が極めて強くその多用な種族で様々な特殊能力を持つ、種の在属維持の本能が強く野生の危険察知力が極めて高い。
故に彼らはこの廃墟の中で生き長らえて居た。
個体で軟弱で危機感の欠落した人種は壊滅し力強き個体の獣人種は残った。
その安全な退避場所に緑の液体が流れ込む。
地下シェルターの入口まで緑の液体が溜まりに溜まる。
<たぽーんたぽーん>と入口まで液面となり波打つ。
<ポコ、ポコポコポコポコ>と気泡が湧いてくる。
その緑色の液体から手が突き出てくる。
地表に液体から這い出してくる。
それは獣人。
だが虚な目をしており瞼が下から閉じる。
基本、人ひと種をインスマウス人化するハイドラの血の変化へんげ能力がこの危機的状況下で変異し獣人種までもインスマウス人化したのだ。
入り口の液面まで頭が浮き上がると<ポーン>と上空に飛び上がり地表に立つ。
至る所の瓦礫下から<ポーン>、<ポーン>と上空に獣人インスマウス人が飛び出てくる。
その数…。
1万は下らない。
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人は怠惰となると非力を補う智恵、危機察知の想像力も退化し滅びて行く。
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