第87話 全員準備はできた。

 完全武装姿の風魔小太郎、中日ドラゴンズの野球帽を被った小学5年生の姿の僕。

 エインセルはいつものフランス人形姿。


 尊きお方、主様、お方様と畏敬の念を込めて呼称されるがこの小学校5年生の姿はやはり不釣り合いだと思う…。


 そしてわなわなと震える空間のある場所にポンと現れたのは、

 白い水玉模のピンクの日傘をクルクルと回す、パステルピンクと白のストライプのふんわりしたスカートに白いフリルが可愛い、背中に大きなパステルグリーンの水玉リボンを付けたエミリア・アルケミーオ。。。


 ちょっと参集メンバーに入っていないエミリアは無視無視。

 絡むと長くなるきっと。


 小太郎が蚊の羽音のような声で同意を求める「まず、公園の空き地に配下の下忍を潜ませているので、お方様は下忍の痺れ煙幕を縫ってスイーツ村へ。

 陽動として四方で爆破を行います。下知を下さい」


 状態異常パーフェクト耐性を知ってかの痺れ煙幕。

 流石の猿飛だね。あ、風魔か。

 不測の事態は、即時撤収の厳命の元に

「オーッケ!承知」と返事すると瞬くまもなく小太郎は跳ぶ。


 遠く四方で爆音と粉塵が舞い上がる。

 ササッと下忍が、僕の横に来て人の大きさの大きな竹の葛籠つづらを持ってくる。

 お方様!さあ、ササッと入るように促す。

 何故に?

 問うと、痺れ煙幕の影響から僕を護り運ぶため。。。

 なんと、流石という褒めは、無しっしだね。

 ※小太郎は、僕の状態異常のパーフェクト耐性を知らない。。。

  忍者だから察して居たかと勝手に思ってた。


 下忍達に、葛籠不要と伝えて徐に歩き出す。


 ビリビリと電気を帯びたような煙が充満し出す。

 後ろからエミリアが、僕の回りの空間もドーム型にバリア張ってパラソルをクルクルしながら付き従う。


 公園の中は、不幸にも遭遇してしまったカップルや人、鳥、猫、犬等が縛り上げられたようにゴロゴロと横たわる。


 公園を抜ける手前で、下忍達のご無事でという蚊の羽音のような声が小波のように背に当たる。

 えーと、小太郎はと探すとスイーツ村の一番高い建物の上に闇に溶け込むように立って居る。

 とととっと、後ろに付き従っていたエミリアを探す。

 後ろには居ない。

 ドームバリアも消えている。。。


 あーーー、居た!

 スイーツ村のカフェのカウンターに立つている。

 チラリと此方を振り返ったその表情で全てが理解できた。

 至福の笑みを讃えてメニューを手にする姿。

 己は、スイーツを食べたかっただけに現れよったな〜〜。


 キーンと飛翔してきた、クナイがエミリアが持つメニューを壁に貼り付ける。

 小太郎も理解したようだ。


 僕は静かに務めて静かにエミリアに歩み寄る。

「ね〜どれがお勧めなの?エミリアちゃん?」

 目は笑っていない。


 エミリアの顔が引きつる。

「キュンキュン・チェリーが飲みたかったのれす」

「きっとはっ恋の味なのれす」

「みなみちゃんがいつも話すのれす、美味しいって!」


 何故か幼児言葉のエミリア…。


「フ〜食べないわけにはいかないよね、小太郎も呼んで食べよう」

「下忍達にもご免なさいするんだよ」


 すーっと、朱色の袴に真珠色の羽織の娘が横に現れる。

 小太郎だ。着替えてる。

「姐御、親方様を危険に誘いざなうとは許されぬぞ」と鈴のような声でエミリアに詰め寄る。

 これが本当の小太郎の声。


「二人共、そういがみ合わないんだよ」

「皆んなで飲もう、キュンキュン・チェリー」


 これがみなみちゃんの話に出てくるキュンキュン・チェリーなのか。


 エミリアも俯うつむきながらも満面の笑み。

 良かった良かった。


 そんな のほほん とした空気が満ちる僕らの回りで異変が始まっていた。

 賑やかな人々の声が飛び交っていたスイーツ村が静まりかえっている。

 僕らが気が付くのが遅れたのは人々はそのままそこに居たから。

 雑踏の音が消えている。


 街の若者二人がはしゃぎながらスイーツ屋のカウンター越しに脳天気にメイドに話しかけている。

 現代世界と同じでこちらの世界にも危険察知能力が劣化した部類は居るようだ。


 カウンターの中の元気いっぱいなメイドが此方こちらを振り向く。

 その眼差しの瞳には、上からの瞼まぶたが無かった。

 暫くしてまるで魚類のような眼がきゅろろと動く。

 そして下から瞼が上がり瞬きした。

 異質…。


 街の若者二人は弾けるように飛び退く。


 僕はそいつらを知っている。

 インスマウス人だ!忘れはしない。

「靖国で会おう〜」、あの声が耳に甦った。


 許さん!理不尽の極み!沸っと身体の内の何かが燃え沸いた。

 その小さな炎が、蒼白い黄泉の炎に変わり漆黒の点となり消えた。


 その刹那自分の体が内側から捲めくれてグルンと一瞬で入れ替わる。


 小太郎が飛び退き。

 エミリアが震えて蒼くなる。


 冷水のような血液が身体を駆け巡り思考も研ぎ澄まされ心が凍った。

 尽きる事のない力が内から溢れ出てくる。


「成る程ね〜もう、ここまで侵食してるのか。

 何処まで人であった時の記憶が心があるのかは分かりゃしないけど、殲滅!

 出でよ、殲滅王:αナタク、ヤレ!」


「御意、仰せのままに」


「出でよ、妖精の守護神:βクー・フーリン!

  日出ずる国の戦士の熱き心と表裏一体化していた頃の想いを晴らせ!」

「有難き!」


『なにわ』の一つのエリアが消滅するのにさして時間は掛からなかった。


 <ぷすぷす>とαナタクの180度天周マルチパルサー砲の硝煙の残り香が漂う。

 幽鬼の様にβクー・フーリンが修羅の豪槍を手に立つ。

 豪槍の切先に滴したたるは魚類の雫。

 殲滅は終わった。

 小太郎の下忍達が、葛籠つづらに生きている魚人・インスマウス人を数体捕獲。

 懲りないエミリアはスイーツを山ほど異空間に収納。


 唐突に耳元に緊迫したちるなの声。

「主、新手が近づいています今すぐに脱出を!」


「エインセル、異空間ゲート展開せよ!撤収する」

 エインセルの周りの空間が歪み奈落の闇が姿を現す。

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