第64話 訝(いぶ)しかむ蜘蛛女。
蜘蛛女は訝しんでいる。
それはちるなが満面の笑みだからだ。
尊きお方を守る兵つわものが必要と思っていました。
兵つわものとは単なる傀儡では無く、明確な意思を持ち信念のために命をも即決で挺する事が出来る覚悟を持つ武人を指します。
「蜘蛛の女人さん、あなたは相応しいわ。身辺警護をお願い致します」
大事な人を守る時、一番大事な事は強靭んな意思力と冷静な判断です。
あなたにはそれが十二分にある事が分かりました。
力は尊きお方にお頼みして授けて貰います。
大事なのは意思力です。
どんなに力や能力があっても意思力無き、心無き者は愚窟でしか他ありません。
蜘蛛女さんは最適かと存じます。
ちるなが目前まで迫ると蜘蛛女は膠着してしまっている。
それは自身の力が遥かに及ばない途方もない化け物が目の前に立ち知性までも賢人の域に達する神に等しい存在だという事が〈ピリピリ〉と空気を伝って伝わる有り得ない状況に驚愕して思考が停止してしまっている。
自分自身が絶対的忠誠を誓う総統様はDNAレベルで刻み込められた生前的に決定された事。
総統様からの畏怖で判断したものではない。
ちるなからは絶対的な力の差を感じた事で同じ感覚で総統様を捉えようと試みる。
それはやってはいけない事だった。
飲み込まれる混沌。
力の差などと言う半端な世界観ではない異質。
飲み込まれる。
差と言うあまりに稚拙な言葉は当てはまる余地など皆無。
パンドラの箱を覗いた者でその異質に耐えきれぬ者はその場で塵と化す。
その混沌の世界を垣間見た感覚と同質のインパクトを受け思考が止まり生命の活動も止まりそうになる。
忠誠の前に逆らえば塵となる絶対的な存在であった事が思い知らされる。
もう抗うすべなのない存在。
ただその者の瞳は慈愛に満ち溢れている。
瞳が語っている。
ありがとうと。
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