第63話 お迎えです!

 いつの間にか足元に平伏している蜘蛛女。

「台無しだよ!折角綺麗なのにスッと澄まして立ってなきゃね」


 〈ギギーギギ〉


 そうか喋ればいのか。

 ただ物凄く破顔した笑顔でスッと立ち上がった。

 嬉しいのだろうね。

 容姿はは大事だと思う。

 悪である程に引目無く上から目線で澄ましていないとね。


 いつかその内ドクターに声が出る様にして貰おう。


 蜘蛛女がスッと僕の前に立つ。


 すると前面の空間に青い渦巻きが現れて見る見る内に大きく拡大する。

 そして現れたのはフランス人形。

 エインセルだ。


「ちるちゃん早く!もー、お化粧はいいから!」

 白拍子姿の絶世の美女が青い渦から出て来る。


 両足を渦から外に出すと僕に駆け寄ろうとする。

 その前に凄みのある殺気を放って蜘蛛女が立ちはだかる。


 ちるながもう一歩踏み出そうとして足を引っ込める。

 彼女は気づいた。

 目に見えない糸がそこら中に張り巡らされている。

 糸には透明の滴で浸されている。

 最初に降り立ったエインセルは既に粘着性のある糸に絡め取られて宙ぶらりんとなっている。

 蜘蛛の糸が張り巡らされている。


 蜘蛛女はチャイナドレスのスリットを腿まで露わにめくり上げて蜘蛛の尻をちるなに向けている。

 糸を吹き掛ける構えだ。

 その前に僕の前には糸で織られた盾が前面に張られて防壁となっている。


 罠と攻めと防御を瞬時に展開している。


 平然と立つちるなが眼を細めて拍手する。

「素晴らしいわ!あなた!尊きお方を守るという気概に溢れています」


 喝采しながらちるなは歩き始める。

 待て待て蜘蛛の糸の罠が…。


 ちるなは全く何も無い様に歩く。


 どんどん進む。

 どんどん進む。


 蜘蛛女が必死の形相で僕の前で身構える。


 ちるなの周りで〈チカチカ〉と小さな煌めきが起きている。

 ちるなは風を常に纏っている。

 風は蜘蛛の巣を切り裂き消滅させていた。


 そして蜘蛛女の目の前に立つ。

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