第56話 生気の無い白い墓標。

 もう末路に入っている様な面持ちが肌身にじわりと染み込む。

 会社ビルに入るとこの空気感に皆んなは気付いているのだろうかと不思議に思う墓標と化したコンクリートの塊。

 空気は人が醸し出すものだから中の連中の相乗した呼吸に生気が無いのだろう。

 そこの人等が吐く言葉は不平不満。

 廊下で行き交っても目礼さえ交わさない。

 宴会、個々の会話も誰かを揶揄する下品な話ばかり。

 そんな事を言ったり話したりしてはいけません的な世の風潮の注意喚起は流れるがそれを喚起する者達も保身やその場凌ぎの詭弁ばかりで陰でこそこそ動き回る。

 どんなに美辞麗句を並べようが悪汁が滲み出ていて人相が悪くなってる事に気づかないのだろうか。

 ま、そこまでなんだろう。

 信に値する人間。

 人間力。

 人望。

 等々歳を経るに連れ自然と備わる味が身に付いていない恐ろしき墓標。


 一方、お互いを同じ会社の釜の飯を食う仲間だと準家族に近い気持ちさえ醸し出す会社もある。

 やはり、空気がそれなりに違う。

 エレベータ、フロアー、廊下、行き交う人の交差には挨拶がある。

 挨拶は上下の別を示すものでは無く、同じこの場に生きる存在同士の畏敬の念とお互いの感謝の交換。

 いい歳こいてそれすら出来ないのは出来損ないだろう。

 恥ずかしさを超えて挨拶を交わす人間成人の凛とした存在としての証と誇り。

 自然に感じるのは仕事を共有して共に歩んでいるという仲間意識を強化する。

 白い墓標の誰それもこの空気感は死ぬ前に一度は味わって欲しいものだ。

 どんなに出来損ないかが身に染みるだろう。


 墓標の中で冷たい冷気を感じながらも仕事はせねばならない。


 お給金を労働して貰う身であるから誠心誠意で仕事には向き合う。

 ただそこに立つ人には何処までの経緯を抱くかは内心の自由。

 腐臭が漂えばマスクして我慢我慢。


 ここでの生業、いや腐臭は反面教師的に理想世界を輝かせる為に陥ってはいけない事を教えてくれる。


 人の心の負の部分をいく種類も目撃出来るし偽善という肥溜も満々と溜まっている。

 サンプリングには事欠かない。


 最近の傾向として老いた人等も増えてきて会社も終わりに近くなると昔を思い出すのか、にじり寄って来る存在が居る。

 いじめた連中はその悪行を覚えていないと言うが確かにそうだけどその様で悪行の数々を受ける側にいた者には鮮明にな傷として癒えずに残っている。

 今更なのであるがにじり寄って来る。

 笑みを浮かべてバイバイだね。


 誠に心を安堵できる人はなかなか居ないね。


 心の鬱積が夢世界への楽しみを倍加する。

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