第44話 意図を持ってあの世界に戻る(通う)

 今日の仕事終わり〜と、会社の裏口の自動ドアをくぐり抜ける。

#脱出っ~う(笑)#


 いつものように液晶腕時計は22時。

 左斜め前には、福岡タワービルのイルミネーション。

 その中を巨大なLED電飾のクリスマスツリー。

「もうクリスマスシーズンか〜」と呟き、コートの襟を立てる。


 日中仕事中の頭の中の御託の果実をあの世界に撒いて育成する。


 眠りに入ろう、菊の残り香が、誘うままに意識を委ねて…。

 〈コトン〉と眠りに落ちる。


 帰宅して待ち遠しかった就寝時間となる。

 おお、この感じ感じ例の目が覚めても夢を覚えている感じだ!

 もう自在に入り込める術を会得した。

 いや思い出したかな。

 不思議とそう思う。

 夢である自覚もしっかりと意識できている!ヨーシ、行くか!

 夢の中だから、やりたい事まで一足飛び。

 ボワンと、記憶の扉が目の前に出現する。

 ドアなんて探す必要はない。

 深くて淡く光沢する紫色の扉。

 白く輝く握り返してくる感触のドアノブをゆっくりと回す。


 シャングリ・ラの陽光が目に眩い。

 全身が喜びに満ち溢れているこの感覚。

 僕はここまでは思い出した。

 僕は余りにも悠久の流れの大河を渡り続けているようでその空気感をこの地では特に感じる様だ。


 今これを書いている令和現代の自分も描けば書くほど縮まる感がある寿命の目減りを差し引いても書き記して行こうと思う。


 そこには一人の女人が居る。

 齢22、3だろうか。

 黒の烏帽子、折り目正しい白装束に紅色の袴。

 古の絵巻物にある白拍子のようだ。

 彼女の周りに風が渦巻き白装束の裾をひらひらと揺らす。

 そう!ちるなだ。


 そして黄金のシャベルで令和現代からの時空の扉を開設してくれたオケラ容姿の犬千代丸様が居る。

 だだっ広い野っ原に椅子にテーブルで二人座っている。


 いいやもう一人遠くを走り回っている西洋人が居る。


 僕が現れるのを見てちるなが駆けてくる。


「尊きお方様、お待ちしておりました」と言葉をくれる。


 さて僕の令和現代の日中に居る不在時の状況を聞くことから始めようかな。


 まずはちるなに頼んだこの地の守備固めについての状況。

 ちるなは主要となるメンバーを幾人か呼び寄せたので紹介するそうだ。

 ちるながこの地を探索するのに随行しているメンバーとなる。


 もう既にちるなの背後にひざまづき待機している影がある。


 幻術士 果心居士、剣聖 卜伝、忍者 風魔小太郎、自分自身怪異 エインセル、ドルイドマスター 森羅万象、錬金術師 エミリア・アルケミーオ、そして楠木正虎。


 あ、もう一人背後に居並ぶことさえせずに走り回っている西欧人 ニュートン・ニューヨーク教授。


 ちるなが説明してくれる。


 自分自身怪異 エインセルが亜空間転移 異空間の揺り籠で皆んなをここに移動させてくれた。

 幻術士 果心居士はこの原野を外から見ると不毛の荒地に見える様に幻術を施す。

 剣聖 卜伝は犬千代様の警護兼将棋相手。

 忍者 風魔小太郎は広域に警戒網を張り巡らせる。

 ドルイドマスター 森羅万象はこの原野の森羅万象に守りの為の罠を張り巡らせる。

 錬金術師 エミリア・アルケミーオは犬千代様の地下世界構築の全般補佐。

 楠木正虎は森羅万象が作り出した5000体のゴーレムを警備兵として戦略的な配置を行う。


 犬千代丸様の楽しき住み家の為の掘り広げる地底世界である地底回廊整備状況は意外に思わしくない。

 シャングリ・ラは特別の地のようで地を掘り進めるプロフェッショナルであるオケラ様でも霊力・精神力の消耗が激しく部屋一つ程のエリアがまもなく完成するまでしか進捗出来ていない。


 守備固めはそこそこ出来ているので僕が不在でも守りは働くだろう。


 問題は地底回廊か…。

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