第17話 血の系譜。

 日本人には血の系譜があります。

 それを疎かにさせようとする風潮があり、それに乗って自滅する人々も居ます。

 血は誰よりも時を超えて味方してくれます。

 先祖を敬う心。

 自分探しとか言葉がありますがそれは先祖を辿ることが先決かともおもいます。

 命を繋げてくれた人々への想いは熱く甦りますね。


 〜○〜


 木の杖を受け取った正虎はみるみる顔色が蒼白となる。

 まるで杖から精気を吸われているように見える。

 正虎は消え入りそうな意識の中で湖底をを見つめていた。

 その湖底は蒼く光り輝く粒子がキラキラと舞っている。

 見覚えのある蒼い光。

 地母神の様に温かくそして切ない明鏡の光。

 正虎は湖底へと手を伸ばし、蒼い光を掴もうともがく。

 伸ばした手の指先が蒼い光に触れた。

 懐かしい声が聴こえた。


「正虎様の血の系譜を大事に思い描いて下さい。明鏡止水」


 目の前の資格がぐるんと暗転し、正虎は見た!

 湊川の川辺に朱色の大田鶴名を片手に握り、剛刀を腰に巨大な白馬に跨った武者を。

 静かに武者は剛刀を抜き放ち、その剛刀を肩に担ぎ、ゆっくりと湊川に向かい白馬を進め始める。

 数歩の歩みではたと立ち止まり正虎の方に振り向き、ニヤリと真っ白い歯を見せながら笑い掛ける。


「その方、我の血の系譜か。ならば、目まなこに灼きつけよ。

 我が血潮は理不尽を許さぬ。我が劔、正義の雷也や!」


 雷鳴の如き咆哮の後、武者は剛刀を突き上げ、ハハハハハと高らかに笑うと白馬と共に駆け出す。


 その背には、幾本もの矢が刺さり、

 その背には、帝の菊の紋章が黄金色に輝く旗竿がはためく。

 そしてその背には、正虎自身の誠が重ね見えた。


 その背に付き従う武者達も菊の紋章のように黄金色に染まり、死せる道行なのにその表情は爽やかで神々しい。

 武者たちは人馬入り乱れての激戦の湊川の水しぶきの中に微塵の躊躇なく飛び込んで行く。


 風が運ぶ武者たちの声が未だに耳に残る。

 殿と轡を並べて駆けるは末代までの誉れ。

 斬り結び躍動する武者らに川の対岸より雲霞の如き矢が放たれる。

 直後、視界がぐるんと暗転する。


 正虎は木の杖を見つめていた。

 明鏡の慈愛、南楠公の雷声。

 今も耳に残る声音に奮い立つ我が血潮の脈動を感じた時、正虎の瞳の奥に菊の紋章が浮かび上がる。


「印を授かったようじゃの。さ、正虎よ、采配を!」と森羅万象が声を張る。

 日の本の輩はこれだから面白い。


 正虎はニヤリと白い歯を見せ笑い返す。

 まるで湊川で見た南楠公のあの表情そのままに。


 〜○〜


 外向きばかりじゃ限界、自身の中身にこそ本当の答えがあるかもですね。

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