第16話 潜入準備と試練。

「さ、ちるちゃん」とエインセルが手招く。


 ‘はい!’とちるながエインセルの前に歩み寄る。


「ちるちゃん、私の揺り籠でおやすみなさい」

 エインセルが微笑むと彼女の右横に青い渦が現れ、人が通れるくらいの大きさに成る。

 ちるなは慣れた感じでその青い渦の入り口から中へと消える。


 すると、今までそよいでいた風が止まる。

 なんだろう空気感が希薄で心細くなる…。

 大きな空気の塊が消失して空気の質感が薄くなる。


「ホッホッホオっ、エインセル飛ばすぞ、用意するのじゃ」

 と果心居士が枯れた声で笑う。


 エインセルが頷くと、みるみるうちにエインセルの身体が縮小して紅いビロードを纏ったフランス人形に変幻した。

 真っ白いセルロイド製の冷淡な皮膚感のフランス人形。

 霊感が強いと言われる人がもしそれを見たら不気味な異形の存在と鳥肌が立つだろう。


 果心居士は、陰陽師のような胴着の袖口から枯れた木の葉を一枚手の平に出してフーッと木の葉と手の平の隙間に息を吹き掛ける。


 木の葉はふわっと浮き上がり滑空し始める。

 地面に近づく程に木の葉は大きくなり、地面に着地した時は丁度エインセルのフランス人形が乗れるくらいの大きさに成っていた。

 木の葉が地面に着くと地面に五芒星が光り輝く。

 果心居士が呪印を地面に描いて準備していたものだ。


 果心居士がフランス人形を小脇に抱えて木の葉の上にそっと座らせる。

「行って参れ」と果心居士が発するとフワリと木の葉は空中に浮き上がり、紫の煙幕が立ち上る方に向かってスイスイと滑るように飛び去る。


 森羅万象が創造したゴーレムは岩と砂で構成された土性の巨人。

 身の丈は2メータほどで人型であるが無機質で命の宿は感じられない。

 雨後の筍の如きに乱立した雨後の巨人たち。

 静寂の中にぬボーッと立って居る。


 森羅万象が大き目のフードコートの中から30センチほどの木の杖を取り出す。

 西欧の魔法使いが持つ、小枝のようなスティックのような形状。

 取り出した杖の取り柄を正虎に向けて受け取るように突き出す。

 正虎も意に介してその杖を受け取る。


 木の杖は見た目とは異なり、かなりじっとりした感触がする。

 よくよく見ると杖自体から水滴が染み出している。

 森羅万象が目深に被ったフードの奥からニヤリとして


 「適合するかの〜正虎は」と呟く。


 「創造主たるダーナよ。我ドルイドの言の葉を受け取り給え」


 「成れば森羅統制、お主の力となろう」

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