第13話 襲撃が去った朝。

 霧が去り朝日が登る。

 深い森でも太陽の陽光は木漏れ日となって明るさを齎す。

 陣幕の周りは大きな円状に木々が細切れに刈られ、骸骨の粉が白く撒き散らされていた。


 陣幕から出て来た正虎と近従の若武者等は巨大な戦場跡を見て驚愕する。

 若君、若武者の頃の正虎は霧のように現れ霧のように去った異形の者等に命を守られた。


 深き森の大木の陰に潜む忍びが正虎の姿を確認すると影のように去った。

 忍びは追討失敗を報告すべく直走る。

 ただ足元に霧が纏わり付いている事を気付いた時には足首が無かった。


 足首が無くなり転げ込む忍び。

 懐から繋ぎの忍びが気付いてくれる事を願いながら狼煙玉を出す。

 着火の火縄筒から火種を狼煙玉に近づける事までが忍びがこの世での最後の動作となった。

 転げ込んだ体全体に霧が纏わり付いて霧の中を縦横に動く凄まじい剣撃で細切れにされた。


「師匠、後片付け終了致した」と霧の中で才蔵の声がした。


 正虎と異形の者等は朝日の中で対面した。

 それ以来彼等、彼女等と共に生きて来た。



 砂嵐の強風で正虎は記憶の帳から呼び戻された。


 ちるなの向かった紫色の煙の方角は、砂嵐の丘陵が途切れるまたその先に遠望する頂きに白い雪を纏った山脈の方向。

 ちるなより先んじた影5人の姿はもう無い。

 ふわふわと風を纏うちるなの歩みは歩くという行為とは全く別物でまるで木の葉が風に吹かれて流れていく様で泥濘む砂の足枷も丘陵の凹凸も関係ない。

 てくてくと歩くしかない正虎もちるなの風に包まれて同じ様にふわふわと木の葉の様に運ばれる。

 踏破に数日は掛かりそうな丘陵ももうすぐ終る。

 眼前の山脈は近ずほどその裾野の前にゴツゴツとした岩がゴロゴロする岩肌に変わる。

 岩肌を紫の煙が細く棚引く方向に風を纏うちるなは、その岩肌の岩と岩をもふわりと跳び進む。

 正虎もちるなに手を引かれてふわりと跳び進む。


 岩肌が終り山脈に入る谷間に先行した影5人が集って思案していた。

 ちるながふわりとそこに降り立つと、5人共に片膝をついて首を垂れる。

 5人の背後には紫の煙がまだ棚引いている。

「ちるな様、ニュートン卿を待っている所です」


 狼煙を上げて小一時間程が経つ。

 紫の狼煙も仄かに漂っているがそうこう話をしている間に完全に霧散して消えてしまうだろう。


「私が先行して狼煙が消える前に狼煙の場所に辿り着きましょう」と小太郎が話した声の背後から

「いや〜これは稀少なる由々しき事ですぞ!いや〜これ程までにウーン」

 とニュートン・ニューヨークの嬉々とした声が聞こえて来た。

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