第12話 果心居士。

 陣幕の外の騒がしさで若君が出て来る。

 その瞬間強弓から射られた槍ほどの大きさの矢が向かって来る。

 猛将権左が放った矢だ。


 カムイが射線に割込み矢を体当りで弾く!

 だが矢は向かって来る。

 一の矢の後ろに二の矢が放たれていた。


 二の矢は若君の心臓目掛けて飛翔する。

 お京のろくろっ首が絡め取ろうとするが吹き飛ばされる。

 飛び助のクナイも弾かれる。

 明鏡は必死で真言を唱え若君を防護する結界を張ろうとしているが間に合わない!

 霧隠才蔵が霧の目隠しで権左を翻弄するがもう矢は放たれている。


 矢の襲来に気が付いた警護の若武者2名も若君の前に盾になろうと射線に飛び込む。


 だが誰しも予想するこの槍のような矢は数十人の人を串刺しに貫通する力があるだろうと。


 盾となった若武者の身体に矢が食い込む瞬間に時間が止まった。

 矢が空中で静止した。


 矢の上に一人の老人が乗っている。

 静止した世界で唯一動いているものがあった霧隠才蔵の霧だ。

「才蔵よ、儂の呪術の中でも霧を動かすか、流石じゃ」


 才蔵が返す。

「果心居士さま、ご助勢かたじけなく!有難う御座います」


「この骸骨の呪術は伴天連の技」

「あちらこちらと日の本を穢しよる許すまじや」

 トントンと矢の上でかかとをふみ鳴らす。

 矢が落下する。

 落下する前に後ろに跳ぶ。

 なんと第三の矢があった。

 第三の矢に飛び乗ると同じく「穢れよ落ちりゃ」とトントンとする。

 矢が落下すると時間が動き出す。

 森のざわつきが元に戻る。

 そして権左の前に果心居士がゆらりと立つ。

 権左も只者ではない歴戦の武者。

 目の前に立つ老人がバケモノである事を五感を通してヒリヒリと感じる。

 我もここまでか命運尽きたようだな。


 得意の槍を上段に構え老人に突進する。


 老人は懐から巻物を取り出しさらりと広げる。

 真っ新な屏風に瓢箪が一つ描かれている。


 果心居士は瓢箪を屏風から取り出す。

 手に取った瓢箪の栓を〈ポーン〉と開けて逆さにする。

 〈とくとくとく〉と水が湧き出て来る。


 流れ出る水は止まる事なく辺り一面を水溜まり、沼、湖としていく。


 槍を上段にしながら権左は水に足を取られながら進むもとうとう水中に没する。


 果心居士はいつのまにか小舟に乗っており揺られながら没する権左を眺める。


 溢れ出た水は屏風の中に流れ込む。

 流れに任せて小舟も屏風の中に吸い込まれる。


 水が全て屏風に流れ込むと溺れ死んだ権左が横たわる。


 玄蕃、飛助、明鏡、カムイ、お京等には権左が一人もがきながら倒れて果てた姿しか見えていない。


 屏風の小舟がどんどん遠ざかる。

 小舟から声が聴こえる。


「才蔵、後は任せるそい」

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