第10話 霧の中霧の中。

 霧の中に閃光が疾る。

 閃光の軌跡を少しあと追って霧が赤く染まる。

 霧の中に一人の侍が居る。

 居合いの玄蕃ゲンバだ。

 侍が立つ位置に円形の無空が生まれる。

 円形の外円に殺戮部隊が触れるたびに閃光が疾る。

 玄蕃の間合いを抜ける事は出来ない。


 霧の中に女人の声が聴こえて来る。

 それは真言密教の真言。

 真言が流れ触れた霧は金色に輝き出す。

 その中に居た殺戮部隊は同士討ちを始める。

 そして真言が止むと立っている殺戮部隊は一人も居なくなる。


 異様な空気を孕む霧に気がついた忍び達は殺戮部隊の本隊に異変を告げ警護を強化する。


 だがその忍び達が一人一人絶命していく。

 本隊に添い歩いているだけなのに誰も気付かない内に突然息を引き取る。

 忍びが崩れ落ちる時に一瞬黒い影が過ぎる。

 黒い影は腕だ。

 黒い影の出元は深き森の中で一際高い大木のてっぺんに甲州乱破の飛助が立っている。

 飛助は左手で印を組み、右手を下方の霧の中に向けている。

 右手の掌をギュッと握り締める度に南無阿弥陀仏と呟く。

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