第7話 守護する者たち。

 沢山の命が消える。見せ掛けだけじゃない自分の味方の命が消え逝く喪失感。身を切る感覚が襲います辛いですね。


 〜○〜


「若、此処よりは戦の鬼の戦場なればご一緒は出来ませぬ」


 若武者の部類10騎を呼び寄せ、若を本城に送り届けるように厳命する。

 残る10騎は老将に近い熟練の猛者ばかり。

 若武者に若を託し、深き森へと走らせる。


 老将を囲む猛者らはニヤケ顔で

「黒鍬殿、また難儀な役回りをご用意願ったな〜」

「で!策は?」


「若の退路方向への目先を逸らす陽動で御座る」

「ただ、一点の疑念なく陽動である我らを追わせるにはお主らの散り様が要」

「如何に百花繚乱の如く、散れるかの競いで御座る」


「また酔狂な黒鍬と付き合うと命が幾つあっても足らぬは。ハハハハハ」

 と猛者等からの大笑いが渦巻く。


 黒鍬が「重ね重ねの難儀、今日を限りで打ち止めで御座るのでご容赦の程願う」


 いきなり「当たり前じゃ、気狂いな難儀、最後に願おうぞ」


 と巨漢の猛者が愛馬に飛び乗ると山の頂き方向へと駆け登る。

 馬影が視界から消える頃合で、他の猛者も山の頂へと愛馬を駆る。


 山の頂から巨漢の猛者が追っ手の方向に駆け下りて行く。


「我、一番槍貰い受けたぞ〜!ハハハハハ」と声が追っ手側から声が響上がる。


 巨漢猛者の背中には既に数十本の矢が刺さって居り、猛進してくる事自体が人の生命力を超えている。

 追っ手の前衛は山の頂から猛進してくる大将格の風貌の巨漢の騎馬の威圧で吹き飛ばされる。

 その圧力は数十騎の騎馬が突撃してきた様な錯覚を追っ手の前衛に齎す。


 追っ手前衛の伝令は、頂上から決死の敢行が行われて来た事を本隊に伝える。

 追っ手は山の頂方向に進軍を集中させる。


 巨漢の騎馬は、四方を取り囲まれると山頂方向に向かう追っ手めがけて阿修羅の如く斬りかかる。


「行かせぬぞ!若殿お逃げください〜」と大声を張りながら馬から降りて、山頂に向かう追っ手に斬りかかる。

 追っ手は我先にと頂上を目指す事に集中する。


 〈ドスッ〉とその背中に大きな矢が突き刺さる。

 矢尻は鎧通しを射抜いて心の臓を射抜いていた。


 巨漢の猛者は心の臓を貫かれた瞬間絶命した。

 その表情は、役目を果たしたニヤリ顔であった。

 正真正銘の猛者の最後。


 引き続き山頂付近の彼方此方で老練な猛者達の命を賭けた大芝居が繰り広げられる。


 強弓の射手は、追って側大将の“猛将権左” であった。


 “猛将権左” は、巨漢の猛者まで歩いてくると猛者の表情を見て忍びを呼ぶ。

「謀れているやも知れぬ。山頂方向ではなくこの先の深き森を探索せよ」と命令する。


 老練の騎馬10騎が山頂に駆け上るを見送った黒鍬の軍師は 透破 を呼ぶ。


「“団蔵” 居るや」


「はは、ここに」と一人の 透破 が目の前に跪く。


「お主の技、頼む時が参った」


「御意」と顔を上げた。

 その顔は黒鍬と瓜二つ。


 二人はお互いの着衣を交換し始める。


 黒鍬となった“団蔵” は、山頂目指して走り去る。


 透破 の忍び装束になった黒鍬は〈ゴリゴリゴリ〉と関節や体の部位を捻り伸ばす。

 暫くしてそこに居たのは なななんと、目もと涼やかな女人だった。


 その名は “霧隠れ才蔵” 。

「若は死なせませぬ」と呟く。


 足元から霧が立ち込めて姿が朧となる。


 暫くして霧が晴れるともう “才蔵” は掻き消えていた。

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