第6話 逃避行。
数多の犠牲、数多の覚悟、全てを集中する逃避行。目的はただ一つ、若君のみの生還を確実にする事。
〜○〜
惨劇の丘陵から5キロは進んだ道行。
数百の騎馬兵も若君の傍には20騎余りに激減している。
黒鍬頭巾の軍師も傍に居る。
ここまでの道程脱落していない事、老将とはいえ並みの武者ではない。
峠道の岩清水の細い小川で馬に水を飲ませつつ老将が若に話し掛ける。
「若、若が上杉勢に囲まれた支城_鷹取城に救援に向かうと下知された時、臣下の誰もが大笑い致しましたぞ。
支城如きを御大将自らが遠路を駆け救援に向かうなぞ愚かな決断。
我ら兵は大将の裁量で将棋の駒のように事も投げに切り捨てられ申す。
戦国の世なれば尚の事、切り捨てるを是と見るも多い。
然し乍ら、我が殿君は辺境の国境の小城に救援に向かうと申される。
我らの命、生き長らえるは本懐ではなく、今その時に仕えし殿に捧ぐるものであるので殿の決断は絶対で
ありますが余りにも無謀。
ですがじゃ、臣下皆、大笑いしながら泣いており申した。
泣き笑いで御座る。
老将の我も正に仁厚き名君に仕えていることを誉と心が踊り申した。
今この時なかなかの敗残の程で御座るが臣下皆共に命の使い所得たりと感謝しておりまする」
「ささ、馬も喉を潤して御座る、若も水をお飲みくだされ」
〈かさかさ〉と峠の木々の間から子飼いの透破が現れる。
「黒鍬様、宜しいでしょうか?」
「良い!申せ」
「はっ。追っ手は此処より5キロまで迫っており新手が加わり峠四方をしらみ潰しで探索しております。
新手を率いる大将は “猛将権左” 殿であります」
「これはこれは、権左まで引きずり出し申したか。
相手に不足は御座らんが、若これは逃げ果せぬかもしれませぬな」
「若、これより峠を登りきると深き森となりまする。
先ずは森へ入り、活路を見出して下され。
黒鍬は、ちと追ってが近過ぎますので此処で時間を稼ぎましょうぞ」
「黒鍬爺、我も此処にて迎え撃つとしよう」
「はははは、若それは成りませぬ」
と、渾身の当身を若のみぞおちに打つ。
手練れの老将の当身、混沌する若。
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