第68話 白鴉ちゃんを助け給えジャック君。

 雪姫の妖術方のお陰で行く手を阻む高圧の気は排除された。


 白鴉ハクアに従うは天狗八仙。

 大天狗こと愛宕山太郎坊、鞍馬山僧正坊、比良山次郎坊、飯綱三郎、相模大山伯耆坊、大峯前鬼坊、白峰相模坊、彦山豊前坊が付き従う。


 黒い球体の前にハクアは立つ。

「ゆうや様!」と声を張るが届かない。

 黒い球体は触れずとも取り除くことは難しい絶対的なエネルギー体であると分かる。

 ここまで来て声が届かないもどかしさに胸が焼き焦がれそうな思いで座り込む。

 大天狗が走り寄るが掛ける言葉は出てこない。


 この黒い球体は雷神や幽鬼、覚醒幽鬼と数多の高位の攻撃を全て弾いている絶対的な障壁。


 〈ゴゴゴゴゴー〉と突如地鳴りがして床を裂きその下の地面に亀裂が走る。

 亀裂の中は赤い奈落の底にはマグマが見える。

 オルゴールの音色が流れるエリーゼのためにだ。

 そして…。

 地熱の蒸気で靄が立つ中に人影が現れる。


「猫ちゃん救出を終えたら今度は白鴉ちゃんですか」

 近づいて来るのは二つの影。


 一人はギヒノム卿、もう一人はジャック、切り裂きジャックだ。

「ジャック君、幽界の貴公子の君の出番ではないかい」

「尊き方の話だと幽体絡み、うーん怨霊絡みのようだから君だろ」

「白鴉ちゃんを助けたまえ」


「そうなんだ」と切り裂きジャックは天狗八仙の間を抜けてハクアの方えと歩き始める。


 その後ろ姿を見送りつつ「ちるちゃん此処どうするの?」と話す。

 いつの間にか横にちるなと小豆公望が立っている。


 天狗八仙の間を歩く切り裂きジャックの異質な空気を感じて柄物に軽く手を置いて〈スーッ〉と距離を開ける。

 切り裂きジャックは飄々と前に進み歩く。


 そしてハクアの真後ろに立って声を掛ける。

「白鴉ちゃんどうしたんだい」

「困ってるの?」


 ハクアはゾクッと背筋に悪寒を感じて振り向く。

 切り裂きジャックの周りは天狗八仙が臨戦態勢で取り巻いている。

 振り向いた視線の先の大天狗がハクアに大丈夫だと目配せする。

 頼りになる一族の顔に落ち着きが戻ってくる。


「困っております」

「黒い結界の中に入れないのです」

「中には御君のお一人、ゆうや様が居られますが黒き心に我を忘れて独り闇に沈んでしまっています」

「お助けしないといけないのに私は無力なんです」


「無力か」

「無力の割には凄いものを持っているようだね」

「出してご覧君が見つけてきた心の雫を」


 ハクアは腰に吊るしている巾着袋から丁寧に苺みるくキャンディーの包み紙を取り出す。

 するりと包み紙を手に取るジャック。

 大事な包み紙をいきなり取られて動揺しているハクアにジャックが話し始める。


「苺みるくキャンディーの包み紙にはほんのりと苺の香りが遺っているね」

「小さな感謝、喜び、愛おしさ、切なさと凡ゆる想いが積み重ねられている」

「尋常ならざる得ない膨大な量のエーテルが蓄積されているね」

「じゃこのエーテルを使って奇跡を見せようか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る