第64話 放心状態で涙が止まらない。

 みなみとゆうやの仲の良さを微笑みながら見ているハクア。


 〜○〜

 

 ※一夜が明けた。最後の日。


 〈チュンチュン〉と、朝の訪れを喜び合う雀たちのさえずり。

 冬の足音近く感じる少し肌寒い朝。

 今春から中学に入学した葵みなみの二階の勉強部屋の窓にも朝日が射し始める。


「ふわわ、わあ〜、パ〜ン、メロンパンを食べるのよ!」

  欠伸混じりの第一声で叫ぶや否や、みなみは布団をはね除け飛び起きる。


 肌寒さなど、焼き立てメロンパンへの強い思いではね除けるみなみ であった。


 寝間着代わりのスエットのまま、学習机の貯金箱から500円玉一つを握りしめ〈ドタドタドタ〉と階段を下りて「お母さんパン屋行ってくる!500円持つてくから〜!」と

 一声吠えて、お母さんの黄色の財布から500円玉もう一つ掴み。

 〈パーン〉と玄関から飛び出す。


 昨日のこと、帰り道にパン屋の窓に貼ってあった、

 〈明日より先着早朝サービス!ワンコインで焼きたてメロンパン二個と

 〝きゅんきゅんチェリー〟をどうぞ!〉の告知にもうメロメロな〝みなみ〟。


 勢い良く飛び出す玄関をパン屋とは逆の左に曲がりそのまま隣の家の庭に入りそのまま縁側のサッシを〈パーン〉と開け放ち、中に飛び込み、

「勇也、ゆうや」と連呼しながら、幼馴染みである荒木勇也を叩き起こし、手を引っ張り縁側のサンダルを履かせて走り出す。


 ユウヤは、その間「うぅ〜」としかの声しか出せない嵐のような襲撃。。。。


 やっと「ねー、みなみちゃぁん何処行くんだよぉぉ〜」


「静にしなさい!付いてくればイイの!」

「だってだってね、ちょっとみなみちゃん、聞いてよぉ、ね、ね、お母さんにも云ってないよ、ね〜」

 というゆうや の格好は。。。

 白いブリーフとランニングに履かされたサンダル。

 ま、田舎だし、、体も小さいので小学生の坊ちゃんに見られる。。。。からイイだろう。

 いやいや、それは違う!恥ずかしい格好この上無い。

 けど、ゆうや に取ってはみなみちゃんと一緒の時は、誰の目も視野に無くなる。

 みなみちゃんが、大丈夫なら大丈夫!なんだ。※それがゆうやの論理


 そんな2人は、朝焼けの路地を賑やかに駆け抜ける。

 みなみ の引く手に引かれるゆうや。

 ゆうや の心には〝満足〟だけで満たされている。


 もう直ぐ、大通りに出る。パン屋は大通りの向こう側。

 やっぱり、ブリーフは恥ずかしい。。。。


 ※ゆうや様の下着姿…。ううううう


「みなみちゃん、ブリーフは恥ずかしいよ!」

「も〜う、分かった!路地の出口で待ってなさい!」

「ブリーフだからって恥ずかしがるとはゆうやも

  男らしくない!もうもう」とかぶつぶつ言いながら、


 ミナミちゃんはゆうや との手をほどき、振り返りざまに

 左手の500円玉2枚をチラ見しながら歩き出す。


 あっ、 》と、

 ゆうや は全速で駆け出す。

 ゆうや の叫びでハッと、みなみは振り返る。

 その親しみのある顔に向かってゆうや は渾身の跳躍で飛び込む。。。

 その後をダンプカーが〈ゴーッ〉と通り過ぎる。


 ※きゃあああああああああああああああああ、いやああああああ〜


 〈カランカラン〉と、回転する500円玉。。。

 〈カランカラン、カランカラン〉回転が止まる。

 血だまりの中に二個の500円玉が沈む。


 赤い朝焼けは、無慈悲に消えた小さな命が宿っていた骸を静に照らすのみ。

 その赤は魂が震えるほどに綺麗な真っ赤。

  綺麗な真っ赤。。。。


  遠くから救急車のサイレンが響く。


 ※放心状態で無表情に涙を流し続けるハクア。


 〜○〜


 束の間、ゆうやの下着姿に興奮したハクア。

 楽しく微笑ましい春の陽射しは唐突に闇と消える。

 赤い朝日が昇る。

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