第63話 ちいさな恋のメロディー。

 

 ※仲睦まじい二人の下校風景を観察する。


「みなみちゃぁ〜ん、みんな帰っちゃったよぉ、もう誰も居ないよぉ」


 みなみ は、廊下の端のゆうや を遠望して顔を下にしてニッと笑みる。

 しょんぼりうな垂れ顔が、顔を上げるとニカっと満面〜の笑みとなる。


「さあ〜、早く帰るわよ。ゆうや!」

「でもあんたさ、どうして今日はいつもと反対側の廊下の端に立っているのよ?」


「それはね、水飲み場のね蛇口の締め忘れで〈ポトポト〉雫が滴っていたから締めて回っていたんだよ」


「はあああ〜、もしかして全部⁈」


「うん」


「それが、ゆうや だから、ま、そだね」

「さあさあ出遅れを取り戻すわよ」


 みなみ とゆうや の家の方角はこの二人だけ、六年間ずっと二人きりの登下校班。

 いつもいつも一緒だからもう恋人とかの生半可な間柄ではなく、ある意味一心同体。


「ねぇ、みなみちゃん、何処行くの? 聞いてないよぉ」

「う〜もぉ、ゆうや!あなたは考えなくて付いてくればイイの!」

「遅くならないよね?お母さんに言ってないから。。。」

「どうしてあなたは、ジクジク言うかな!」

「ココに来なさい!頭なでなでしてあげるから」


 頭なでなでして貰うと、ゆうや は上機嫌となる。


「みなみちゃん!ゆうや 何処でも付いてくからね!」

「そ!最初から素直で居なさい」

「で、何処行くの?」

「もお〜黙って付いて来なさい!」

 裏門出るとみなみ は、ゆうや の腕を掴み〈グイ、グイ〉引っ張って大股で歩き出す。


 帰り道の途中の、小さな公園の入り口の自転車進入禁止のU字管の上にいつもの様に二人座っている。

 そしていつもの様に、みなみ はランドセルから巾着袋を出して苺みるくキャンディーを二個取り出す。


 〈くるくる、くる〉っと包みを開けて

 〈ガシッ〉とゆうや の口に押し込む。


 〈コロンコロン〉とキャンディーを転がしながらゆうや は、手をみなみ ちゃんに〈グイ〉っと突き出す。


「ハア〜」っと、みなみちゃんは苺みるくキャンディーの包み紙を手の上に置く。

「ゆうや〜どうして包み紙を欲しがるのよ!ちゃんとあたしゴミ箱に捨ててるよ!もー」


「違うよ。僕はね、この包み紙をみなみちゃんとの大事な毎日の記念にとって置くことにしてるんだよ。だから大事なモノなんだよ。」

「お家に帰って、カンカンに入れてたまにね、数えるとね、なんかなんかね嬉しいんだ。」

「これ絶対秘密だよ!」


「もー、ゆうやそういうのは、1番秘密にしないといけない相手は、

  あ・た・しなんだけどな〜。やっぱ男子はお子様よね。」


「どうでもいいから、行くよ!さ、立って!」


 ※仲睦まじさが溢れ出る二人。


 テクテクと二人は町の大通りまで来た。

 みなみ は、煉瓦造りの高級そうなパン屋のガラス窓をジーッと凝視する。

 ガラス窓には、小さな黒板が掛けられており、そこには

 〈明日より先着早朝サービス!ワンコインで焼きたて

  メロンパン二個と〝きゅんきゅんチェリー〟をどうぞ!〉

 の告知。

 ジーッと、ジーッと、ジーッと凝視終えて、


「さっ!帰るわよ!」と、クルッと踵を返し歩き始める。

「ワンコイン、ワンコイン、ワンコイン、ワンコイン。。。」


 家に帰り着くまでみなみ の呪文のような独り言は続いたのだった。

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