第56話 枯れた命も我が子。

 耳をつん裂く雷鳴が轟く。

 〈キーン〉聴覚が奪われる。


「超存在よ!荒魂あらみたまを鎮め給え、我が命を奉じ鎮守碑と致しますれば何卒何卒お鎮め下さい」


 四方に走った落雷で黄泉比良坂の壁が随所で焦げきな臭い煙が漂う中ミケちゃんがヌーっと立っている。

「お前は女陰の雷神か!お前には役があるだろう、子を成す役を自ら捨てると言うか」

「数多の女陰が子を成す希望を持ち営む事の主祭神がたかが亡者の成れの果てを救うのか」


「亡者どもは元は女陰から産まれし命であります、成れの果てとなろうとも母なる位置の女陰の雷神なれば放っては置けません」

「今から産まれる命も枯れた命も業にまみれた姿をさらそうとも皆等しく我が子であります」


「枯れた命も我が子か」


「私がバケモノとなる前に仕えていた姫も子を成そうとしていた事を思い出しました」ミケちゃんは遠い目をする。


「止めた止め!」

「私はこのまま行く!あなたは未来に産まれ出ずる命を叶うならば一人でも増やして!」

「簡単に人身御供と成るものではないよ」


 ミケちゃんは黒き沼の出口に向かって駆け去る。

 もう怪猫の呪怨は纏わず、キュートなミケちゃんとして駆ける。


 大雷神、火雷神、黒雷神の真横も当然駆け抜ける。


 命拾いしたのかもと暫くしてポツリと思う主神格3柱。

 神となり悟りなどとうに得たとたかを括っていた事を痛烈に恥じた。

 命を拾った今思うのは安堵。


「我らまだまだであるな」


 走る走る、ミケちゃんが走る。

 行く手に小さな光が見える。

 グングン光は大きくなる。


「トーウっ」

 ミケちゃんは渾身の脚力で跳ぶ。

 空を駆ける。


 光の中に吸い込まれる。


 飛び出た先は髑髏の頭蓋骨。

 黒き沼方向に向いていた髑髏の顔が大襖の方向に向きを変える。

 ミケちゃんは頭蓋骨の中に吸い込まれ頭蓋骨内を〈グルングルン〉内回りして〈ポーン〉と目の穴から飛び出す。


 眼下には何故か泥だらけの清盛公が見える…。

 ミケちゃん帰還。

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