第53話 現世へ。

「黄泉比良坂には曼珠沙華がお似合いだわ!次は誰の徒花あだばな咲かせようか〜〜」

 と背を向けながらも若雷神、土雷神に向かっての言葉だと分かる。


 業に汚れし者共が行き着く先の黄泉比良坂。

 ミケちゃんが許すはずもなし。


 神である位置の若雷神、土雷神が足がすくんで動けないでいる。


 雷神2柱が目の前にしているのは紀元前まえ栄華を極めた古代メソポタミア文明を一人で滅ぼしたイシュタール最高峰の超科学で産み出された究極生命体。

 その姿はアミュティス王妃が一番幸せを感じた時に目にした動物の姿をしている。

 愛する王、ネブカドネザル2世がお忍びで連れて行ってくれたエジプト地方の民家の軒先にいた漆黒の身体に四つ足だけが靴下を履いている様に白い猫の姿。


 若雷神、土雷神共に神と呼ばれし豪の存在。

 自身を蚤ほどの存在と自覚する日が来ようと夢夢思わなかっただろう。


 だがそれは最初で最後だろう。

 もう助かりはしないから。


 バケモノ少女が振り返る。

「ミャ〜〜〜〜〜〜〜〜っ」


 猫の鳴き声が響き終わった時、若雷神、土雷神の首は宙を舞っていた。

「理不尽なる業よ、許すまじ許さん断じて許さん!神であろうと許さん」


 ミケちゃんは出口となる黒き沼に向かって走りだす。


 まだ地上方向の黄泉比良坂には、黄泉醜女が雲霞の如くに充満している。


 その中をミケちゃんはが走り過ぎると、黄泉醜女は傀儡の様に糸引かれて在らぬ動きの後に自身の手で首を掻き切り曼珠沙華と化す。

 曼珠沙華の花畑が地上に向けて拡がり咲き乱れる。


 それは亡者どもの生への残り火が赤く赤く現世に向かう様に。

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