第43話 激闘開始。

 

「人の業に塗れた愚か者の行き着く果て、この地は私の狩場」

「そこを我が物顔に歩く者共よ、笑わせるな、一切合切滅めっする」


 もう鬼女醜女は逃げるのを止めて立ち止まった。

 〈ケタケタ〉と笑っている。

 亡者も気が狂れるようだ。


「こりゃたまげた!ギヒノム卿、ミケちゃん大物過ぎないか?」

「桁外れの妖気を感じるんだけど」切り裂きジャックが何やら嬉しそうに話す。


「地獄に対局する幽界の貴公子の君は嬉しくてしょうがない様だね」


「地獄で暴れるのは僕の趣味だからね」

「地獄から漏れ出た悪魔を狩っていたら人間界では切り裂き魔!心外だよね」

「悪魔を滅するには心臓を焼き払う必要があるのに猟奇殺人とも言われたね」

「あれ以来、僕はもう知らない関わらないに決めたけどね」

「でもね、本物の強者との決闘は僕の大好物だからね」


「さてさて、腐った業の臭いで覚醒したミケちゃんを追いますよ」


「地獄で神に願うとはどこまでどこまで都合が良いんだ!外道」

「業の深さに呆れる」

「私は腐った業の臭いが大っ嫌いなんだよ!」

「もう地獄とも無縁の奈落に墜ちるがが良いわ」


 〈ケタケタ〉笑っている鬼女醜女の内から声がする。


 〈ジジッ〉

 〈ジジッ、スベテヨオワレ〉

 〈ジジッ、イマコソ ワレラヲ〜コントンカラトキハナテ〉


 鬼女醜女の身体が膨張するどんどん膨張して手も足も取り込まれて

〈ぷくぷく、ぶぶくぶく〉丸い巨大な風船の様に変貌する。

 巨大な風船の真ん中に空洞が現れその中に海が見える?

 その海の彼方から巨大な何かがこちらに向かって来る。

 この巨大風船から出て来るつもりに見える。


 海の水が畝り、巨大風船の真ん中から海水が零れ落ちる


 煉獄回廊の地面に雫が着くとそこから黄泉醜女が出てくる。

 黄泉鬼女では無く黄泉醜女が出て来る。

 黄泉醜女は黄泉鬼女の数百倍の戦闘力がある。


 今それが湯水の様に湧いて出て来る。


 様子も変だ。

 〈ヌチャヌチャ〉と耳元まで裂けている口。

 まるで、魚類の顔。

 〈ヌラヌラ〉した膚。

 〈ぎゅろろ〉と下から瞼が閉じる目は死んだ魚のあの目。


 インスマウス人…か。


 〈ザバーンザバーン〉と豪雨の様に煉獄回廊に降り注ぎ、数十単位で黄泉醜女の体をしたインスマウス人が増殖する。

 もう既に数百体はそこに居る。

 魚臭さが充満する。


 一際大きな水飛沫が溢れ出る。

 同時に巨大な蛸の触手が這い出て来る。


 黄泉醜女が変化したインスマウス人が呟き始める。

「ダーゴン、ダーゴン」と呪文の様に唱え始める。


 あの触手。

 古きものダゴンの伴侶ハイドラだ。

 クルスの海でエンペラー星人の王子に消滅させられたあのハイドラだ。

 古きものも地獄に堕ちて来るものなのか。


 もう戦闘は始まっている。


 ミケちゃんが修羅羅刹の如くにインスマウス人の海の中で乱舞している。

 その背後に切り裂きジャックが床屋の髭剃りカミソリを左右の指の間に4本ずつ挟んでスマートに切り裂く。

 8本のカミソリの軌跡は五線譜を描く様に流れる。



「これは少々、不味いな」

 少し離れた位置でギヒノム卿が新たに夢幻の胸ポケットからオルゴールを取り出す。

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