第11話 本題じゃ。そして悲しいの〜

 僕に関する話へと説明が進む程に心の中に閉篭もる何者かの存在を感じる。

 ただその漏れ漂ってくる思念は悲しみに染められている。


 〜○〜


「本題じゃメぇヘヘ」


「小僧殿を何故に呼び求め、サウィンの祭り日に呼び掛けを繰り返していたか?

 それは、憧れじゃ。

 あれは〜我が小僧殿が人の世で楽しげに遊んで居る姿をヤヌスの泉から見てからじゃった。

 始まりは、我らが盟主 創世の祖たるダーナ神族全能の神グヌーの神殿の玉座の間にあるヤヌスの泉をグヌーが楽しげに覗いておったのを、我も横わらから覗き見たのが始まりじゃった。

 ヤヌスの泉には、一人の稚児が映っておりその稚児の出で立ちは紋様の入った緑のマントを羽織、腰には剣を帯刀しておった。

 稚児の身でありながら呪詛紋様のマントと帯刀を許されるとは如何ばかりの高貴な身の上か。


 更には近隣を畏怖堂々と巡視する義侠高き行動。

 一目でお気に入りとなったものよ!

 長き時空の中で我等ダーナ神族が夢見て止まない。

 無明の先に灯るあるべき姿がそこに映し出されておった。

 しかもまだ成長の途にある稚児。我に取って楽しみこの上もないものであった。

 小僧殿は知らずとも我としては、馴染みこの上ない存在なのじゃよ。

 メェへへー」


 # 確か、お袋から聞いた覚えがある。

  僕は幼稚園から帰ると、お袋に風呂敷を結わい付けて貰い、プラスチックのオモチャの刀を腰に差して、近所を決まったコース時間でパトロールしていたと。


 呪詛紋様も風呂敷が唐草模様だつたので、そう見えるかも知れない。

 そんな中で自分自身に幼稚園児の自分が自分に呟いた言葉を今でもくっきり覚えている事を思い出す。


「僕が大事な人を誰も失いたくない気持ちが抑えきれないから見回りをしていた事を、大人になっても僕はきっと覚えているだろう!と今ココに記憶に刻む」と、呟いたことを。


 パトロールは、近所の人らの日課に組み込まれ巡って来る時間に外で待ってて声をかけてくれた。

 来ない日があると、病気したのかと家まで見に来る人も居たようだ#


「小僧殿の呟きは、まるで稚児の中に押し込められている別の何か大きな存在を感じさせる。

 ここに来た現世の小僧殿も記憶に封じられた小さき頃の自分に這入り込んでおるようじゃな。

 これなのじゃ、小僧殿の稀なる能力は!メェへへー

 異世界を自我を保ちながら往き来する。

 時間軸をも異世界の行き来の中の一つに押し込めて造作もなく自由に往来する。

 厄介な時間軸の概念も扉を開けたら付いてくる必然のように意識すらせずに処理している。

 この途方もない事を行うには、天文学的な量の魔法力の源であるマナを必要とする。

 その以前にその理を操る事が出来る能力が無いと無理。

 貴殿は神すらも実現できないことを簡単に行い、しかも戯れておる。

 メェへへー」


「何故じゃ、どうして出来る?メェへへー。

 どうして簡単に出来るのじゃメェへへー。」


「やっと、当人に聞ける。大願成就じゃ。メェへへー」


 そこでケルノンクスは、立ち上がり、一声大きく「メェへへー」と鳴く。


「そろそろ限界じゃな。」


 頭のカラスが、ぼそりと声を出す。


「もう行くか」


「ああ、」と、ケルノンクス。


 唐突に、ケルノンクスが切り出す。


「この魔法陣を維持するのが限界のようじゃ。

 小僧殿の足のアーリアは、我の魔法陣で眠っておる。

 アーリアは力は非力じゃが、極めて魔法力の強い奴で

 我の魔法陣をもう直ぐ破壊するじゃろう。

 目覚めと同時に、小僧殿のことをクトゥルー神に伝える。

 その前に消し去る!

 ダーナ神を見つけたとクトゥルー神に報告させるように

 アーリアの眼を我に釘付けにして消し去る…。

 その為に、我はこの辺で小僧殿等とはお別れじゃ、メェへへー」


 その言葉が終わるや否や、足元のアーリアが蒼く光り出しぶるぶると振動し

 <ぶおんぶおん>と唸り声をあげ始める。

 おおおおと、アーリアを見ていると帽子カラスが、


「見よ!」と嘴でつつく。


 ケルノンクスに視線を向ける、

 三メータ近いその身体からキラキラと金粉が舞い落ちている。

 綺麗だ!幻想的に見えるその情景に目を奪われる。

 頭の中に、ケルノンクスの声が響く。


「残念じゃそして悲しいの〜

 小僧殿とは、もっと遊んでいたかった。

 我はそれをずっと待ち続けて居たからな。

 願は叶うと同時に、消え行くか。。。

 これも世の理じゃな-。

 悲しいの〜〜」


 ケルノンクスの身体に小さな渦が、いくつもいくつも生まれる。

 その渦にケルノンクスの身体が吸い込まれ、裁断されていく、

 そして大きな渦が胸のあたりに生まれ、小さな渦を引き寄せ食らう。

 いつの間にか、アーリアが渦に引き込まれるようにグルグルと

 回りながら大きな渦に吸い込まれていく。


 一声、〝メェへへー〟と、苦悶の鳴き声が響き、

 シュパッと、大きな渦が黒い点となり消え去る。


 ポタポタと、雫が降る。


 カラス帽子が泣いていた。


 少し隠った声が淋しさを纏いながら静かに響く。


「悲しくは無い、馬鹿たれが。。〟」


 カラス帽子は佇まいを正して、


「これより、あなたを主あるじと決め、全知全能を捧げん

 あたしの名は、モルガン、時の流れに揺蕩う。

 三千世界を道引きし道祖神」


「あたし、疲れたわ。帰ろ、主あるじ」


 〈主、主、あるじ。。。。。。〉


 艶やかな声音の後、キーンと耳鳴り音に包まれて朝が来た。


 〜○〜


“モリガン”にとって“ケルノンクス”は、悠久の大河の中を共に泳いで来た友なんだろう。

 僕には“モリガン”に掛ける言葉すら見つからない…。

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