第12話 新しい日常が始まる

 夢と現実の狭間は毎日やって来る。

 その繰り返しは目覚めている間、認識されないだけで記憶の扉にその都度記憶されている。僕は夢を見る事に楽しむと同時に恐怖を感じていた。

 ただ傍観する夢ならいいけど、意志を持つて動き回る夢の中。僕には産まれながらにそれが出来たし、その方法を知っていた。


 〜○〜


 朝が来た。

 不思議だ。

 余りにもリアルなこの余韻。

 遮光カーテンを開けると、白いレースのカーテンを通して朝の日射しが目に眩しい。

 何ともメッセージ性の強い夢だった。

 心理学者のフロイトの夢診断だと、夢は何かしらの深層心理が作用して自分さえも気づいていない自我を垣間見せるそうだ。


 ま、夢。夢。

 生きるための日常をしっかりと生きねばね(笑´∀`)

 夢だけじゃ生きていけないからね。


 朝飯は食べないそんな習慣とは無縁となっている日常。

 いつも通りただただ会社に行く用意を順番通りに進めるだけ。

 朝の情報番組Z iPが時計代わり。

 番組の進行を耳で聞きながら刻を計る。


 少し早回しに用意を進める。

 最近、取り入れた行いが一つあるから。

 神棚に柏手に真言を唱えて、高野山の粉線香を眉間にちょこんと置く。

 自分でも不思議だけどね、脈絡もなく急にやり始めた自分を面白く感じている。

 どこの誰からも教わっていないのに、不思議だよね唐突に行い始める事柄って。

 オギャーと生まれてより老いて死ぬまで経験は適宜反映するにしても己の単独思考だけでは解釈が難しい事象がこの小さな自分ワールドにも存在する。

 Z iP の予測クイズが終わる頃、玄関の戸を開ければ電車に間に合う。


 鍵締めて、さて戦場に向かうか〜と、駅まで三分の距離を歩き始める。

 マンションは、高台だからいつも風が吹いている。

 此の地を選んだ一番の理由は風の通り道だからというのもある。

 膚に感じる心地良い風を受けながら駅へと向かう階段を下りる。

 あの夢の中の記憶の扉にも風を受ける自分が居たね。


 途中指を鳴らすと、何処とは無しに“靴下ちゃん”が現れる。

 黒地に足が白く、靴下を掃いている風だから“靴下ちゃん”。

 猫である。

 足元にゴロゴロと纏わり付く、警戒心皆無のお花畑猫。

「おい、靴下、気をつけて今日を生きろよ」と、

 裏返って腹を見せている“靴下ちゃん”の喉を擦って駅へと向かう。

 

 空を仰ぐと、いつもの様に〈グルグル〉とカラスが頭上を旋回している。

 それとは他に…。

 ジーッと、大きなカラスが此方を見ている。

 それも駅横の駐輪場のフェンスに、止まるとは大胆なカラス。


 真横を通る。

 〈パキン〉と硝子が割れるような音が頭の中に響く!

「あなた、大人になっても小僧のままね」と声が響く。

 自然にカラスに向かって、「余計なお世話だ」と返事している自分に驚く。

 誰も見てなかったか、さりげなく周りを見渡す。

 よぼよぼ婆さんが一人見えるが、いつも独り言呟いている婆さんだから、

 ま、イイだろ。


 不思議だ。

 〈パキン〉と、音が響いた途端、夢の自分と現実の自分が繋がった。

 そう頭の中、思考が夢世界時と現実今自分がオーバレイして重なったのが分かった。

 カラスには、驚きもなく淡々と「現実にも出て来るんだ!」と頭の中で返す。

「主あるじ、あなたとは常に一緒だと言ったでしょ」と、妖艶な声音。


 あっいけない!


 電車が来る!急ぎ駅ホームへと走る。

 走りながら、なるほどと口許がにやつく、自分に驚く。

 お前は誰だ。。。。自分自身に呟く。

 電車に乗り込み、次の駅で乗ってくる同じ会社の通勤友だちとも挨拶交わし同じ日常が始まった。

 カラスに向かい、にやけた自分を思い返す余裕無く今日の仕事に思いは囚われる。


 昼飯さえ食う時間無い程に実直に仕事に没頭する。

 この偽善者自己満足の偽装に終始する傀儡見たいな自分を内心、嘲り嗤いながらも今日という1日の会社生活を全力で全うする。


 〈ふぁー〉と息を吸い込み〈ふぅー〉と息を吐きながら涙目欠伸混じりの溜め息。

 今日の仕事終わり〜と、会社の裏口の自動ドアをくぐり抜ける。

 

 トロトロと家路、そして自宅。

 風呂めし済ませ、床につく。


 映画蘇る金狼の松田優作が、アジトのような自宅に戻り仮面を脱ぐが如くに、脱ぎ去りたい怠惰な自身の殻を脱ぎ去るように…。


 目を閉じて。

 呟く。

 カラスよ。誘え!


「仰せのままに」〈ふふふふ〉と、妖艶な含み笑いが部屋を包む。

 コトリと、また夢世界に旅立つ。


 〜○〜


 現実世界に夢の世界の住人を見とがめた時、僕の日常は大きく変わる。

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