第8話 勇者 ク・フリン

 ケルノンクスは魔法、日本風に言い直して法力だそうだけど、それを使って僕を精神体の姿でこの現在の日本海側の浜辺の街に転移させてくれたようだ。


 そこで目撃したことは…。


 自衛隊員 敷島隊長、斎藤隊員他全滅。身を挺しての見事な最期。

 安穏とした現代日本人の僕にとって強烈な情景だった。

 綺麗事ばかりを大きな声で論じる割に日常の小さな理不尽さえ見て見ぬ振りのタヌキ寝入の誤魔化似非日本人の世界に浸る僕にはあまりに強烈な出来事。

 同胞日本人が攻撃されたことも稲妻に打たれた如くにに脳天から足先に衝撃が走る。


 〜○〜


 〈ぶわ〜ん〉と、青い色に包まれた無線機の隊員が降りて電柱の前に降り立つ。


「なんと、清廉なる戦士たちよ!バルハラの戦士に価する行いぞ。

 この魂の輝き我も加勢せねばならぬ。

 “ケルノンクス”、“モルガン”、神々の祖との約定に抗うこと許されよ」


〈パーン〉と青い光が増し、そこに現れたのは、スパルタの戦士のような出で立ちのトサカ羽のある鉄兜、赤いマント、革のサンダルに、右手には巨大な剣、左手には光り輝く丸い盾。


「クククやはり、居たか!ダーナ神の戦士よ。酔狂よの〜

 ケルト人の次は日本人に肩入れするか。」

 金色の神官服がニヤケる。


「いざ、参らん、日出ずる国の戦士に報わん」

 剣が青く輝き、槍に変わる。


「その槍、ゲイボルグ!ほーこれは、上々、ク・フリンが釣れるとは」と薬剤師風の女。


 もうク・フリンと呼ばれた戦士は、何も喋らない。

 〈ドーン〉と風圧の後の緑血煙が、舞ったあと、魚類のインスマウス人は一人も残ってなく。

 人間?幽鬼三人とク・フリンが、より固まって立つ。

 “ク・フリン”の槍ゲイボルグは、力士男の身体に突き刺さりガッチリと掴まれたまま動かない。

 神官服の男は、身体は消し飛び生首だけで生首の付け根から生えた蛸の足のような触手で、“ク・フリン”を羽交い締めにしている。

 薬剤師のような女だけが、〈ゆらゆら〉と“ク・フリン”の後ろに立ち、目障りなダーナめ!と、どす黒い色の長い爪を“ク・フリン”の首筋に突き立てる。

 その刹那、“ク・フリン”は、唯一動く方向である力士男の身体に向けて渾身の力で突きを入れる。


「ゲイボルグよ、不浄を消し去り、戦士の魂を讃えよ!」


 言葉を残して光の屑となり霧散する。




 ゲイボルグは、“ク・フリン”の意思を介して力士男を突き破り、神官服の男の首を突き消し、僕が立つ電信柱に一直線に飛んでくる。

 電柱の陰に沿い立つ自分の身体に触れる瞬間に、〈ぶわーん〉と目の前が暗転し雪の広場に戻る。

 “ケルノンクス”の後ろの木には、ゲイボルグが突き立っている。


 放心というより、涙が止まらない。

 何なのこれは、惨劇過ぎる。日本人が日本人がやられた。

 そして、仁のあるク・フリンの男気…。


 “ケルノンクス”が、静かに語り始めた。


 〜○〜


 光。


 昔、日本に居たという武士の武士道を思わせる光。

 ク・フリン、古いにしえの戦士。

 崇高なるその魂に心が震え涙した。

 圧倒的な邪悪の力その強さにも驚愕する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る