第7話 許されざる、惨劇。

 ケルノンクスは魔法、日本風に言い直して法力だそうだけど、それを使って僕を精神体の姿でこの現在の日本海側の浜辺の街に転移させてくれたようだ。


 〜○〜


 89式カービン銃で蹴散らされた魚類群の中から逃げてきた女性を自衛隊員二人が引っ張り出す。


 まだ、動いている。


 良かった。流石は自衛隊!


 女性が顔を上げる…。


 口が、耳まで裂けている、、、


「くそーくそ、間に合わなかった」と自衛隊員が叫ぶ。


「下がれ下がれ〜!!」


 後方の4人目の隊長と思われる自衛隊員が叫ぶ!


 1人の自衛隊員が、腕を掴まれた。


 隊長も残りの1人も駆け寄り助けようとした時、交番の中から二匹の魚類が出てきた。


 一匹は警官の服装だ。


 銃を隊員に向けて立て続けに発砲する。


 もう一匹は女と一緒だった男。


 顔半分魚類に近付いて行く女にヨロヨロと歩み寄る。


 六発の銃声の後、自衛隊員一人が倒れ伏し、残り一人は足を引きずり、隊長は片腕をダランとさせて必死で足を撃たれた隊員を魚類が溜まった死地からの退避を始めようと、商店街の方に向きを変えたが歩き出す事は出来なかった。


 それは、いつの間にか彼等の後ろは魚類に埋め尽くされていたから…。




 ドンと、魚類の溜まった場所に白煙が上がった。

 倒れ伏した自衛隊員は、二人を逃がすために自爆した。

 血煙が残る。

 辺りには生臭い魚類の腐臭と、硝煙のと血の臭いが漂う。

 # 嘘、、、と、自分は呟く#




 白煙の後、巡査と逃げてきた男も吹き飛んでいた。

 ただ、逃げた男は、魚になりかけの女性の横で女性の手を握って事切れていた。

 まだ、男は中身は人の意識を残していたのだろうか。

 最後の最後まで彼女を想っていた。


 逃げ場の無くなった隊長と足を撃たれた隊員は…。

 隊長が、ゆっくりとゴーグルを外してゴーグルのカメラを自分に向けて話す。


「こちらワイルドウルフ隊 隊長 敷島三尉」


「これより最終殲滅にはいります。日本のみなさんの武運祈ります。

 完全殲滅は無理と思われます、仕事が残り申し訳ありません。

 最後に、お世話になりました!」と、にっこりと敬礼。


 胸ポケットから、セブンスターを出してシュパッと、火をつけ、ふーと吸い込む。

 さてとお、ゴーグルを肩口にかけて、もう一人の隊員に声をかける。


「すまんかったな、斎藤、非番に呼び出してこの坐摩だ」


「お詫びは、靖国でな!」と駆け出す。




 斎藤隊員がやれやれと、ゴーグルを外す。


「隊長〜どうも好かんのですよ〜、この生くさい奴らの匂い、魚は当分喰えないな!」と隊長の後を追う。




「斎藤、グレネード弾二本、残段数80、手榴弾2」と日焼けた顔が叫び伝える。


「敷島グレネード弾一本、残段数90、手榴弾2、コルベット残り12発」

 と隊長も伝えながら前進する。


 やおら立ち止まり、〝行くぞ〟と呼応し二人、同時にグレネード弾を撃ち込む。


 間髪入れずに敷島隊長が魚類の群れに向かって駆け出し、斎藤隊員の露払いをする。


 だが、カービン銃を撃ちまくっても魚類の群れは肉の壁のように、次から次へと押し出して迫ってくる。


 その時、後ろにいた足を負傷している斎藤隊員が、飛込み前転を三回して敷島隊長から、体1人分飛び出してパッと立ち上がり、隊長に振り返って、ドヤ顔しながら敬礼する。

 口元が「靖国で!」と動いた瞬間、閃光が走り白煙が残る。

 自爆。。。


「バカヤローがーーーー」と、最後の拳銃コルベットを単発で撃ち込みながら斎藤隊員が開けた魚類の壁に向かって白煙の中に消える隊長。


 銃声も消え、白煙が去ると三人の人間が幽鬼のように現れる。


「役立たずのインスマウスめ。

 ダゴン様の食物の役のみで良いモノを」と、金色の神官服の男が喋る。


「人族もインスマウスになる材料故に価値はあると分析する」と、薬剤師のような女が歌うように喋る。


「虫けらめ」と、力士のような体格の男が…。

 敷島隊長の頭を鷲掴みにしていた。

 片手で掲げて、それを握り潰す。

 足元の血だまりの中に、セブンスターの箱が佇む。


 僕は電柱の陰で放心して。。。ただ、ただ見てた。


 真上から〈ドシャン〉と、重い物が落ちてきた。

 無線機だ! そうだ、無線機の隊員が1人残っていた。

 でも何故に上からなんだ…。


 〜○〜


 無感情で見て見ぬ振りで偽善を振りかざす現代の風潮の中で、決然とした意志で日本人を守ろうとする自衛隊員。

 命の使いどころに躊躇なく命を輝かせる。

 尊き崇高なる行動を虫けらのように踏み躙る異形の存在。

 特殊な鍛錬を経てないあのカップルでさえ女性の女友達を思う心、男性の彼女をおもう心、人の優しさが理不尽に踏み潰される。

 僕は目の前で盾となり消えゆく日本人の光と理不尽な闇の存在を目撃した。


 それは強烈に心に刺さった。

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