第3話 菊の残り香の誘う先は。。。少年の日の自分だった
繰り返す毎日、特に不満があるわけでも無いけど記憶の扉から漏れ聞こえる囁き誘い。
幾つもの戦乱、そして先の大戦と今の日本の安寧な社会に辿り着くまでに数多の命の光が消えた。
多くの光の犠牲の上にあるこの安寧を当たり前のように生き、その上に胡座をかいて愚にも付かない不満、偽善、悪意を増長させ生を終える。
撒き散らす偽善の偽笑いの下の餓鬼根性に気付く心眼も薄まり、命の尊きを本当に自分は理解しているのだろうか。
扉の先に答えはあるのだろうか。
〜○〜
菊の香りがまだ残っている。
風呂めし終えたら23時過ぎた。
寝ようか布団に潜ると、菊の香りが鼻に残っていた。
時計を見ると、11時11分。何気なく時計を見ると、よくこのぞろ目。
しかも今日は11月1日であるからぞろぞろぞろ目が大満載!
毎度よくあるから、何かオカルティックな巡り合わせじゃないかと思ってしまうけどね。
ふとね、去来した想い。
電照菊の残り香が、記憶の扉・夢の世界へと誘ってくる。
深くダイブせよと、強い思念が誘うかのように…。
そうだね、どうせ明日も電照菊生活。
摘み取られるを待つよりは冒険に出掛けよう!
戻って来れないかもだけどね。
菊の残り香で普段の恐怖心、警戒心が薄くなったのかな。行こう!
眠りに入ろう、菊の残り香が、誘うままに意識を委ねて…。
〈コトン〉と眠りに落ちる。
おお、この感じ感じこれは目が覚めても夢を覚えている感じだ!
不思議とそう思う。
夢である自覚もしっかりと意識できている!ヨーシ、行くか!
夢の中だから、やりたい事まで一足飛び。
ボワンと、記憶の扉が目の前に出現する。
ドアなんて探す必要なし。
深くて淡く光沢する紫色の扉。白く輝くドアノブをゆっくりと回す。
#このドアノブ毎度、握り返してくる感じがするんだよね#
扉を開け放つとむーんとする夏の空気とミンミン蝉の声。
少し視線をラウンドビュー。
すると、、自分が居た居た!居た〜と、
知覚できる!今ラウンドビュー視点に映る自分の考えが。。。
そう思った瞬間。
上から視点して眺めていた小学校二年生の自分にふっーと同化して夢の中に着地する。
#まるで憑依だね!#
基本、夢の中は、記憶の扉の中に備蓄された記憶の塊を〈現〉から入った現世の自分の主観(興味や思い入れ)で夢の中で再構成されると考える。
この日の小学二年の自分は、夏休みで親父に近所の山にクワガタムシ採りに連れて行ってと頼むのに必死な状況だった。
大親友である“一法師君”に、クワガタムシ採りに親父が連れて行ってくれるからと、既に約束していたから…。
ごねてたら、お袋が「早よ、車に乗らんね」と外から声を張る。
外では、親父が車のエンジン吹かせて待っていた。
ぶっきら棒で仕事をよくサボる親父だけれど、このような子供的なお願いはお袋の陰からの口添えが強力にあるにしてもよく聞いてくれる。
実は内心は、自慢の親父なんだ…。
車で、“一法師君”ちに寄って拾って行く。
さあ、向かう山は、不動岩と呼ばれる山。
遠望すると山の中腹上寄りに、20階建てのビルに匹敵する実測80mの巨大な人面岩が突っ立つように鎮座する。見た目、神秘的な雰囲気漂う神話の頃よりそこにある圧倒的存在。
岩成分は太古に海底で変斑糲岩が積もり圧縮し、それが地殻変動で隆起した。
言うなれば、君が代にある、さざれ石の巨大な塊となる。
山の裾野から中腹までは、ミカン畑が続く開墾された長閑な山裾。
クネクネと、蛇のとぐろのような道を車は不動岩の巨岩への入口近くの駐車スペースまで登っていく。
蛇行する道は、コンクリートのブロックを置き並べたような作りでその連結部分に、接合のための生ゴムが敷設されておりその上を車が通る度にボコンボコンとバウンドする。
#少し酔いそう。。。
# [この瞬間も憶えようと思ったのを覚えている。
小さな軽を運転する親父の真剣な横顔を憶えているだろうと心に強く思った事]
着いた!
標高389m鹿本平野が一望でき家々がマッチ箱に見える高さ。
お目当てのクワガタムシが集まるクヌギ林は、不動岩が鎮座する祠へと続く森の中の秘密の場所にある。
必ず、そのクヌギの木には、クワガタ、もしかしたらミヤマクワガタが居る。
ただし裏側には巨大な蜂、ダゴ蜂のおまけ付き。
クワガタは、夕方涼しくなると、クヌギの蜜を吸いにお出ましになる!
親父を急かしていたのはこのゴールデンタイムに間に合うため。
親父は、車に残るから一法師君と二人で車から飛び出し秘密のクヌギの木に向かう。
もう大漁は確約。。。の筈が!
なんと、クヌギの木の蜜の穴に、焼け焦げた硝煙の黄色い痕跡。。。
火薬の後だ!
やられた、誰かに秘密が露呈して、そして先を越された。。。
下品な輩の仕業だ、クヌギの木の穴に隠れているクワガタを強引に引っ張り出そうと穴を大きくするために2B弾を使った乱暴な手口。
クヌギの木の明日なんて関係なしの連中の仕業だ。
一法師君も憤慨している。
まだ夕暮れ迄には時間がある、仕方ない。。。
ここは諦めて新たなクヌギの木を二手分かれて探すことにした。
一法師君は森の下側、
僕は不動岩がそびえる山の上側へと続く小道へと分かれた。
森の中を細くクネクネ小道が、巨大な人面岩のある真下へと続く、小道の終わりに森も終わり視界がバーーンと広がる。
ゴツゴツした岩肌に覆われて、グーッと顔を九十度反らして仰ぎ見ても
見渡せない不動岩の巨大な人面が生首として鎮座する。
生首であるを物語る一面の土は赤土で、真っ赤。岩肌は、太古に積もった変斑糲岩が、さざれ石と成りし神話の国日本ならではの伝説の場所。
こんな人が通りそうな道沿いには、秘密は見つけられないやと不動岩の首元にある不動明王の祠にお賽置いて、不動岩にもクワガタ見つかりますようにと話しかける小二の僕。
少し斜め上からの目線の現世の自分は夢だから返事してよと思いながら…。
「コチラヘ」と、そびえる不動岩が腹話術みたいに応えた!
やはり、夢はそういうもんだあ。
ここまでがあまりにも現世と同じようなリアリティライクな進行速度と、物理法則、常識的な規範を守った流れで進むので…。
夢なのに〜と思っていた所だった。
でもコチラヘと招く先は、今来た小道と不動岩の祠を真ん中に反対側にポッカリとトンネルのように、暗い森に誘う入口。
どわーッと、息が出来ない程の強い風に吹きつけられる。
まるで突風だ!ちょっと入って見る。今来た小道と同じく、森の中を小道が続く、森の密度が濃いのか、かなり薄暗い。
下に向かう下り道だな。
その先は、前に探検してるから知っている。
昔、修験者が修行の場とした大きな広場を伴った大きな社屋がある場所に通じている筈。
でも日暮れが近いからか、森は抜けたけど広場は暗い…。
風は未だに肌に強く当たる。何処から吹き込んでいでいるのか、人差し指をちゅぽっと口に含んだ後に指を立てる。指が冷んやりする方向を頼りに、歩み進めると。。。見つけた!
風は、岩清水が湧く大きな岩の裂け目のような洞穴から、ゴーっと吹き出ていた。
覗き込むと、岩清水が流れる道となる小川が、奥へと続く。
三途の川のような小石を積み上げたものが至る所にあって、洞窟の縁には蝋燭が灯っているようなキノコ?が群生して異様な雰囲気を醸し出している。
[後で知った:キノコ類の名称はキツネノロウソク]
「ハハ」そうなのね!風の音はピタリと止み。
強い風圧は肌に感じるも、警告音キーンが聴こえまくっている。
記憶をたどるこのダイブで危険と思うキーン音。
それはココから。。。ココから聞こえていたのか!
と、小学生の我が身の夢姿の中に居る現世の自我が呟く。
記憶の再構成とは違う存在を自分の記憶の扉の中に感じた。
ちょっと、身震いする…。
# 戻れないかも。。
ま、割としっかりと覚悟はある〜かな、元よりそのつもりだった#
さて、入るか。
岩の裂け目に、ゴロゴロした足下をホイホイと小学二年の小さな身体でジャンプしながら中に入る。
木の根やらが、突き出ている洞窟内、そのずっと先に人の姿が朧気に見える。
もっと奥へと進む。。
菊の残り香が、その奥からこっちだと漂い誘ってくるから…。
夢の記憶の世界の先で誘われるままにもっと深い深層へ。
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