決戦の地へ その3
1月15日―
使者を伴いながら、フランの元に航行していたライネル大佐は、通信士に本隊が現在どこにいるか確認させる。
すると、本隊から暗号文でアウステルッツ宙域に、向かうように返信があった。
(流石は陛下、行軍が早いな)
それを聞いたライネル大佐は、急ぎ進路を変更させる。
1月16日―
南モラビア星系惑星アウステルッツ宙域に、ライネル大佐が到着した時、ガリアルム艦隊は既に到着しており、オロモウシとアウステルッツを結ぶ航路を中心にリュス艦隊、ロイク艦隊、ウィル艦隊を展開させていた。
フラン艦隊は後方で待機しており、それを護衛するようにイリス艦隊とエドガー艦隊が布陣している。
アリスタルフ1世から使者の任を授かったドルグーシン伯爵で、彼の任務は使者だけではなくガリアルム艦隊の情報収集もあった。
「使者殿、陛下の旗艦まで案内するので、我らについてきてください」
「承知した」
ライネル大佐の高速艇の後ろについて、ドルグーシン伯爵の乗った高速艦はガリアルム艦隊の陣形の中に入っていく。
どの艦隊も整然と陣形を保っており司令官の優秀さ、それと艦隊の士気と練度の高さが窺えるだろう。
(ふむ……。確かに噂通りガリアルム軍は、優秀な艦隊のようだな)
だが、その陣形はいつでも移動できる移動に適した縦陣であり、戦う気が無いようにも見える。
(縦陣とは… いつでも逃げ出せるようにしているのか…?)
そんな事を考えながら、ドルグーシン伯爵は周囲を少しでも情報を得ようと観察をしていく。すると、やがて戦艦や巡洋艦などの大型艦艇が並ぶ中に、一際目立つ戦艦が見えた。
「白いな……」
黒い虚空に浮かぶ白い戦艦を見て、ドルグーシン伯爵は思わず呟く。
その白亜の巨艦は、まるで空間を切り取ったかのように真っ白く輝いていたのだ。
連絡艇に乗り換えたドルグーシンは、その白い戦艦の中に入っていく。
艦内に入ると、やはり白色を基調とした内装が施されており、廊下なども清潔感溢れる感じであった。
「使者殿、こちらへどうぞ」
(さて、いよいよ白い悪魔とご対面か)
ライネル大佐がそう言って、ドルグーシン伯爵率いる使節団を先導する。
そして、そのまま彼は貴賓室に通されると、そこには既にフランとクレール達側近が待っていた。
「使者殿、よく来てくれた。私がフランソワーズ・ガリアルムだ」
「……」
自己紹介をしてきた妙齢な女性は、 “目の前にいるのは、本当に生きた人間なのか?”と疑問に思う程美しく整った顔立ちで、肌も透き通るほど白く、白金色の髪も輝いて見え、ドルグーシン達は思わず息を呑む。
「おっ お初にお目にかかります、配下。私はこの度、我が<
ドルグーシンは、内心の動揺を抑えながら、なんとか言葉を紡ぎ出す。
「ご苦労であった。早速拝見させていただく」
フランはそう言うと、使者から渡された親書を読む。
その内容は、フランの戦闘を避けたいという要望に対して、条件如何では受け入れる用意があるという旨趣が書かれていた。つまり条件次第では休戦を受け入れるということである。
それを見た彼女は、安堵して表情が和らぐ。
彼女の動向を観察していたドルグーシンは、その表情の変化を見逃さなかった。
それがフランの演技とも知らずに……
「休戦を受け入れていただけるとは、この度のアリスタルフ1世の寛容さと慈悲の心に、心から感謝すると陛下にお伝えしていただきたい」
フランは感謝の言葉を述べると、そのまま条件交渉に入る。
アリスタルフ1世の条件は、ガリアルムからのドナウリアとオソロシーヤへの賠償金支払いと、領地の一部割譲であった。
当然、ガリアルムにとってこのような条件は受け入れられない所であるために、フランは条件引き下げ交渉を行い、賠償金額の引き下げと割譲地の縮小などが暫定的ではあるが決まる。
その条件は、本来ならウムルで勝利を収め戦力を残すガリアルムが受け入れ難い内容であるため、フランがその条件を受け入れた事にドルグーシンは内心驚くと同時にガリアルムの現在の状況が、自分達が考えている以上に逼迫している事を感じ取った。
この後、ドルグーシンがそれを持ち帰って両皇帝と協議するという話となって、会談が終了すると彼はフランからの親書を受け取り艦に戻る。
「どうだ? ガリアルムの艦隊数はどれくらいだ?」
この宙域に到着した時に、部下に命じて艦隊数を調べさせていた艦に戻ったドルグーシンは、早速その報告をさせた。
「レーダーと光学望遠による索敵によると、およそ22000隻といったところです」
(我連合軍の半分か……。なるほど、これならガリアルムの小娘が弱気なのも頷けるな…)
報告を受けた彼は、フランの弱気な態度に納得がいく。
アウステルッツ宙域を出て、ガリアルムの通信傍受の危険が無くなったので、ドルグーシンはすぐさまアリスタルフ1世と暗号通信を行う。
「そうか…。ガリアルムの現存戦力はそこまで下がっていたか。それで小娘はそこまで弱気であったのか」
「はい。それにあの条件に近い内容も受け入れました」
「なんと!? それは真であろうな?」
アリスタルフ1世は、ドルグーシンの報告を聞いて驚きの声を上げる。
「はい。今のガリアルムの艦隊があれでは、あのような条件を飲むのも不思議では無いかと考えられます」
「うむ……そうか。まぁ良い。書簡をデータ化して送ってこい。その内容を見ながら、決定する。あと、予定通り偵察艦を密かに残して、奴らの動きを観察させよ」
「はっ!」
こうしてドルグーシン伯爵の命により、密かに偵察艦が残されガリアルム艦隊の動向が、逐次報告されることになった。
「やつらには、我軍が困窮して戦う気がないと映っただろうか?」
「おそらくは…。ですが、敵にも我らのこの態度が、欺瞞だと気づく者もいるでしょう」
会談を終えたフランが、クレールに考えを求めると彼女はそう答える。
「そうだな……。だが、それが分かる者は少数だろう。それにその意見が信じられるとは限らない。特に自分達が有利となりこうしたいと思った時の人間は、自分達に都合のいい方を信じる― いや、信じたいモノだからな」
フランはそう言うと、クレールに視線を向ける。すると彼女はその言葉の意味を理解して、無言のまま軽く頭を下げたので、フランは言葉を続けた。
「おそらく罠だと主張する者の意見は消極案として却下され、我軍が弱っているこの機を逃さずに決戦するべきだとなるだろうな。決戦の準備を進めるぞ。まずは、ルイとヨハンセンの艦隊に暗号通信を送って、現在地を確認しろ」
「はっ」
クレールは敬礼をするとすぐに動き出す。
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