敵首都星占領 その2
1月7日―
敵の帝都を占拠して安全を粗方確保したガリアルム軍は、ヨハンセン艦隊と補給艦隊が到着するのを待つ間、ホーフルブク宮殿に入城を果たしていた。
宮殿は代々のドナウリア帝国皇帝が、政治と居住するための宮殿で広大な敷地面積を有する建物であり、内部は非常に豪華絢爛な造りとなっており、内装や調度品などを見るだけでも価値があるものであることがわかった。
現在は皇帝一族とその親族しか住むことが許されていないが、その住人達は持てる分の財産を持ってガリアルム艦隊が到着する前に避難しており、現在はもぬけの空となっている。
「過美な宮殿だな。無駄と浪費の極みだ」
フランは王宮に足を踏み入れるなりそう呟く。
この広々とした空間や煌びやかな調度品の数々は確かに美しいのだが、それが逆にフランにとっては醜悪さを感じさせた。
それは彼女の感性からすれば、贅沢の限りを尽くしているように見えたからである。
「こんなモノを購入するよりも、一隻でも多くの戦闘艦を買うべきだったな。豪華な調度品や金品を購入しても、国は守れないのだからな」
彼女はそう言いながら、玉座の間に歩みを進めた。
玉座の間に入ると広い空間が広がり、奥の数段上がった場所に玉座と思われる豪華な椅子が鎮座していた。
それは歴代のドナウリア皇帝だけが座ることを許される場所であり、現在そこに座って良い人間は一人だけであるが、その人物は今ここにはいない。
「これがドナウリア皇帝の玉座か」
フランはその玉座の前まで行くと、そこに腰掛けようと思ったが止めることにした。
「なんか他人が座り続けていた椅子って、好きじゃないから止めとこう」
急に女子発言をして、座らずにその代わり良い事を思いつく。
1時間後、玉座の間には撮影班が入って来て、クレールの指示で撮影を開始した。
玉座には、新マスコット<マンショアンプルール(コウテイペンギン)のアンプちゃん>のぬぐるみが、新しい玉座の主と言わんばかりに置かれており、撮影班はそれをカメラで撮影する。
「あー、マイクテス、マイクテス……。本日は晴天なり、本日は晴天なり」
クレールはマイクテストをした後に、
「今日からこの玉座は僕のモノだペン~」と、アテレコを開始した。
撮影された映像は、全宇宙に向けて放送され、その放送を見た者達は驚きの声を上げることになる。
それは、オソロシーヤ艦隊と合流した玉座の主フリッツ2世も例外ではなかったが、驚きはすぐに激怒へと変わった。
「おのれ… 小娘…! 神聖なる我が帝国の玉座を穢しおったな……!」
フリッツ2世は怒りで震えていたが、それを諫めるように側近の一人が声をかける。
「陛下…… 落ち着ついてください……」
「これが落ち着けるか!! このような恥辱を受けて黙っているわけにはいかんぞ!!」
フリッツ2世の怒号に対して、側近達は冷静になるように宥め彼は落ち着きを取り戻した。
「小娘… 今に見ていろ…! 必ず後悔させてやるぞ……」
フランに対する憎悪を胸に秘めた状態で、フリッツ2世は決戦を迎えることになる。
「では、計画通りあの宮殿や貴族達の屋敷にある金品を運び出せ。解っていると思うが、金品を横領した者には、厳罰を与えるからそのつもりで、職務に励め!」
フランは、現在の彼女の玉座たる旗艦<ブランシュ>の指揮官席に腰掛けると、そう指示を出す。
彼女の命令により兵士達は、宮殿内にある金銀財宝を運び出しはじめる。
「国防を疎かにして私財を貯め込むから、このように最後は侵略者に奪われることになるのだ。自業自得だな」
「彼らのしたことは泥棒対策を最小限の費用にして、その分私財を溜め込んだモノを泥棒にまんまと盗まれたようなものですからね」
フランとクレールは鼻で笑うが、臣下や自国民、そして子孫達への教訓として今回の件を、今後の教育に生かせればと考えていた。
1月8日―
惑星ヴィーン宙域にヨハンセン艦隊が到着しその半日後に、補給艦隊が到着する。
その補給艦隊には、新兵器の説明のためにメアリーが同行しており、彼女がその説明を終えた後に、久しぶりにフラン、シャーリィ、メアリーの三人による女子会が行われていた。
「そうだ聞いてくれ。遂にルイに抱擁されたんだ~」
話も中盤になり、フランは嬉しそうにそう言うと、それを聞いた二人は我が事のように喜ぶ。
「いいですね~。憧れのシチュエーションですね~」
「それは良かったですわ。では、次はキスですわね?」
「えっと、それはまた今度かな? ほら、まだそこまでは心の準備が出来てないっていうか……」
二人の言葉を聞いて、フランが顔を赤くして照れながら答えると、今度は二人が顔を見合わせて苦笑する。
「相変わらず初々しい反応ですわね」
「全くです。そろそろ進展があっても良いと思いますよ?」
「うぅ…… 二人ともイジワルだな~」
恥ずかしさを隠すように、フランはお茶を飲む。
そんな様子を微笑ましく見ながら、二人は自分達も頑張ろうと決意を新たにするのであった。
「私は明日、一足先に北上する。こうして、二人と女子会をするのも決戦を終えた後になるだろうな」
「そうですわね。また三人で女子会出来ることを祈りますわ」
「私も、皆様のご無事をお祈りしております」
そう言って、三人は別れの挨拶を交わす。
1月9日―
ヨハンセン艦隊と補給艦隊が合流を果たしたことにより、ガリアルム艦隊はいよいよオソロシーヤ・ドナウリア連合艦隊との戦いに挑むことになる。
「これより、我が艦隊は北上して先行しているアングレーム艦隊が駐留する南モラビア星系惑星ブルンに向かう。ヨハンセン大将。貴官には補給を済ませて、空になった補給艦への略奪品の積み込みと惑星ヴィーン方面の防衛を任せる」
「承知しました」
フランはヨハンセンに指示を出すが、その顔には意味深な笑みを浮かべており、彼もその意味を看破して黙って頷く。
「では、各員速やかに行動開始せよ!」
フランの命令と共に、ガリアルム艦隊はリュス艦隊を先頭に南モラビア星系惑星ブルンに向かって、進軍を開始する。
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