敵首都星占領 その1



「フラン様、部屋に入ってもいいですか?」

「あっ ああ……」


 部屋の外から聞こえてきたルイの声に対して、フランは少し動揺しながら返事をする。


 昨日、彼に見せてしまった醜態のため正直会いたくはなかったが、会って話し合わないと心を引きずってしまうので、意を決し会うことにしたのだ。


「失礼します」


 ルイがフランの部屋に入ると、彼女は合わせる顔が無いのか背中を向けていた。


(時間もないし僕から切り出すか…)


「フラン様…… 体調は大丈夫ですか?」

「ああ… もう、問題ない…」


 肩に掛かる銀髪を触りながら、ルイの心配する問い掛けに対し弱々しい声で答える。


「それなら良かったです」

「心配掛けてすまない……」


 フランは謝罪の言葉を口にするが、振り向くことはない。

 彼女からは話しかけてくる事はなく、返事も必要最低限しかしないため、会話が続かずに時間だけ経ってしまう。


(これは、クレールさんの策を用いないといけないな……)


 ルイはこの部屋に来る前に、廊下でクレールと会っておりこのような策を授かっている。


「ルイ君。あの中学生皇帝― いや、陛下は変な所でナイーブなので昨日の事を引きずって、長々ダラダラと君とまともに会話もせずに、時間を浪費するでしょう。君も承知していると思いますが、私達に時間がありません。だから、貴方の方から率直に伝えてください」


「どう伝えればいいですか?」

「そうですね……。私の妹が見ていた恋愛漫画から、引用するとしましょう」


 そして、クレールのアドバイス通り、ルイは単刀直入に伝える事にした。


「フラン様。昨日の事ですが……」


 ルイの言葉を聞いた瞬間、フランは肩を大きく震わせる。

 まずは、自分の気持ちをはっきり伝える事から始めることにした。


「僕は昨日の事は気にしていませんし、ましてや嫌いになんてなりませんよ!」

「本当… か…?」


 フランは恐る恐る背中を見せたままで、首だけルイの方に向けて彼をチラ見する。その表情には不安が浮かんでいる。


 そこで、ルイはクレールから教えられた恋愛漫画のテクニックを、思い切って使ってみることにした。


「にゃっ!?」


 それは後ろからフランを抱きしめて、耳元で囁くという方法であり、突然の出来事に彼女は言葉も出ない。


「だって、フラン様は大切な幼馴染じゃないですか。だから、嫌いになるわけ無いじゃないですか」


「にゃにゃにゃ!!?」


 恋愛中学生のフランにとって、抱擁プラス耳元囁きは衝撃が大きすぎてルイの言葉は聞こえていない。そこに加えて、ルイがフランの頭を優しく撫でてきたので、頭はオーバーヒート寸前となってしまう。


 だが、ルイに嫌われていない事が分かり安心したのか、次第に落ち着きを取り戻す。


「あ、ありがとう……」


 フランは頬と耳を赤く染めながらお礼を言う。


「では、フラン様の出発が近いので、僕はこれで失礼します」

「ああ、そうだな…。今日はわざわざ済まなかったな」


「いえ。では、失礼します」


 ルイはフランから離れ敬礼すると、フランの部屋から出ていく。


 フランはルイが部屋から出ていくのを確認すると、ベッドにダイブして先程のことを思い出して、ベッドの上で身悶えを始める。


(うわぁー!! 恥ずかしいぃ!!! しかし、ルイのやつ抱擁+耳元囁き+頭ナデナデは反則だろう~~!)


 先程の事を思い出せば思い出す程、恥ずかしさがこみ上げてくるので、枕に顔を押し付けて足をバタバタさせてしまう。


 暫くの間、部屋の中ではドタバタと音が響いていた。

 その後、フランは身支度を整えると艦橋に向かい艦隊の出撃命令を出す。


「全艦! 敵首都星ヴィーンに向けて、進発する!!」


 こうして、翌日12月16日にフラン艦隊はとルイ艦隊を残して、ヴィーンに向けて行軍を開始する。


 その2日後の12月19日―


 惑星ミュンヒンに駐留するルイの艦隊に、投降の処置を終わらせたヨハンセン艦隊が合流を果たす。


 ルイはヨハンセンの元を訪れると、今後の方針について話し合う。


「というわけで、僕の艦隊はここで駐留しているんです」

「なるほど、陛下も大胆な作戦を考えられたものだ」


 ヨハンセンは感心しながら呟く。


「ヨハンセン提督。これからどうされますか?」


「私は命令通りに、陛下の後を追って惑星ヴィーンに向かうつもりだよ。ルイ君も私が進発した次の日には南モラビア星系方面に向かうといいよ。目標は……」


 ヨハンセンはそう言った後に、コンソールを操作して星系マップを表示させると、それを見ながら目標地点を想定する。


 そして、5分ほど考え込むと、ルイに目標を提示した。


「よし、ここからだとここが良いかな……」

「南モラビア星系惑星ブルンですか…?」


「恐らく決戦はこの付近で、行われると思うよ。まあ、絶対とは言えないけどね」

「解りました。陛下に通信を送って、第一目標はそこにします」


 ルイはヨハンセンの元から旗艦に帰って来て、フランに惑星ブルン行きを告げ許可を得るとヨハンセンが出発した次の日に行軍を開始する。


 1月5日―


 先発していたリュスとイリス艦隊は、敵の支配宙域を突破して惑星ヴィーン宙域まで到達していた。


「軍事施設への精密射撃の後に、地上部隊で敵首都星を制圧する。なお民間人への略奪と暴行は決して許さん。もし、それを行った者は厳罰を与える」


 リュスは部下達にそう厳命すると、まず宇宙港の制圧を指示する。


 <マンショⅡ>達は敵の宇宙港防衛部隊と戦闘になるが、その火力と防御力によって敵を圧倒して、制圧範囲を拡げていく。


 約半日で宇宙港制圧を完了させ、今度は地上戦の準備を開始した。


 翌日1月6日―


 フラン艦隊が当該宙域に到着すると、地上部隊を更に投入する。


「既に制圧は50%完了しています。後2~3日あれば制圧は完了すると思います」


「宇宙港以外の施設は最悪破壊しても構わん。占拠しても我らが使用することはないからな」


「了解しました」


 リュスの報告を聞き終わると、フランはそのように指示を出す。

 占拠は一時的なもので長期的な統治を目的としていないため、味方の犠牲を出してまで施設を占拠する必要はない。


 むしろ、放置して敵に利用されかねないように、可能な限り施設の無力化を行うほうが良いため、利用し終えたら宇宙港も破壊するつもりである。


 ドナウリアの民には悪いと思うが、今は自分達の命の方が大事であるため仕方がないと割り切っていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る