二人の過去 続! ヤンデレ編


 私は始めて両親や親族以外に、奇異の目ではなく好意の目で見られたことにより、自分の存在が認められたような気がした。


 そして、自分が勝手に彼女達に壁を作っていただけで、シャーリィやリュスもそんな目で見ていなかった事に気付く。


 それから、私とルイは宮廷晩餐会や舞踏会が行われる度に、中庭に抜け出しては色々な話をした。


 それらがない時でも、ルイを呼び出して会っていた。


 ルイは小説や漫画が好きで色々読んでいるらしく、初めて会った時に私がその小説から出てきたような神秘的な姿をしていたので、とても驚いたらしく、それと同時に私と話をしてみたいと思ったらしい。


 私が読むものと言えば実学の本ばかりで、ルイに小説の話を聞いていてもそんな空想話を読んで、何の意味があるのかとも思ったが、彼が嬉しそうに話す姿が好きだった。


 そして、ルイやシャーリィ、リュスなどと接するようになってから、私の<世界を、人間を滅ぼす>という考えはいつしか消えており、代わりに新たな考えが頭を占めるようになった。


 <まあ、ルイが私と一緒にいたいと言うなら、一緒に居てやってもいい>


 一年が過ぎた頃、ルイは戦記物の話をするようになった。


 きっと、少し知的な戦記物の話をすることで、自分を年上の知的な人物だと思わせて、私の関心と<好意>を得ようとしているに違いない、カワイイやつだ…


 そして、その頃になるとルイが、優秀で真面目で誠実で何より心優しい人物だと私は分析結果を出しており、<まあ、これからも一緒に居たいというなら、居てやっても良い。ただし、他の女の子と仲良くすることは許さんがな!!>と考えるようになった。


 そして、それからも私達は会っては色々話し合い、同じ時を共有するうちに


 <私がこれから一緒に居てもいいと思っているのだから、お前もそう思っているのだろう? そうに、決まっている!! なら、他の女と仲良くするのは、私への裏切り行為であり、許されることではない!!!>


 という考えに至るのは自然なことである。


 ※自然ではありません。




 因みにフランが、この考えに至ったのはルイと出会って、僅か4年で12歳の時である。

 フランのチートに近い鋭敏な頭脳が、無駄に使用された結果であった。


 彼女はこの考えから例の計画を実行するために、この後ルイの父親と会って、その才覚を見せつけルイを軍隊に入れるように手を回すが、結果失敗して自分が軍隊に入って修正することになるのは以前語ったとおりである。


 だが、フランはルイを監視してまで束縛しているが、別に深い男女の関係に成りたいわけではなく一緒に居るだけで、現状は満足であった。


 フランが稀にお色気攻撃で誘惑するのは、それが男性の心を掴めると情報で得たからで、その色仕掛けも中学生レベルであり、それは彼女の恋愛観が中学生レベルだからだ。


 このことについて、後に改革時からフランに仕えていたという人物の証言が残っている。


 質問内容が内容なだけにインタビューに際して、彼は全身にモザイク、声も機械で処理、名前は勿論イニシャル表記するという条件で証言を引き受けてくれた。


「当時の陛下の恋愛感について、お聞きしたいのですが?」


 インタビュワーの質問に、暗闇に置かれた椅子に座ったL・A氏は言葉を選びながら、ゆっくりと当時の事を語り始める。


「ああ、確かにあの頃の陛下は、そういう事に疎かったですね。<カマトトぶってんじゃねぇーぞ、この性悪黒ゴスロリ>と内心思っていました。ですが、本当に男女の恋愛に疎かったみたいですね。中学生みたいな恋愛をしていましたよ。いや、最近の中学生の方が、まだ進んでいるかもしれないな」


 L・A氏は次にルイのことについて、自分の感想を語りだす。


「それなのに、他の女性と話すだけで嫉妬され、エロ本や動画を年下純愛モノに限定されて… そのクセ自分はせいぜい膝の上に乗ったり、一緒にご飯食べたりするだけだから、ルイ君もかわいそうにと思いましたよ。まあ、俺の知らない所でよろしくやっていたかもしれないがね」


 そう言って、ゲスな笑みを浮かべるL・A氏。


「ところで、本当にモザイク入っているよな? これ入ってなかったら、俺コレもんよ?」


 L・A氏は少し真面目な表情で、首切りのジェスチャーを行う。

 スタッフが笑うと彼は真剣な表情でこう答える。


「いや、下手したら本当に、断頭台の露になるからな!」


 L・A氏の言う通り、絶対君主制なら君主の機嫌を損なえば、そうなることもある。

 まあ、フランはそのようなことはしないが。


「すっ すみません! 機械のトラブルでモザイクが入っていません!」

「えええーーーー!!? おい、どうしてくれるんだ!?」


 驚くロイ― L・A氏が、スタッフを問い詰めるとこのような言い訳が返ってくる。


「だっ 大丈夫ですよ! 閣下はサングラスを掛けているので、それが目隠しになっていますから!」


「そうか… それなら、良かった…… そんなわけねーだろうが!!」


 怒ったロイクとスタッフは、暫く取っ組み合いを始めた。


 もう一つ、後にフランの側に長くいたクレール・ヴェルノンが、このような言葉を残している。


「そうですね。あの頃の陛下は、中学生みたいな恋愛をしていましたね。きっと、恋愛観が中学生ぐらいまでしか成長していなかったのでしょう。これは、おそらく陛下の傑出した才能のせいだと思います」


 クレールは紅茶を飲むと、話を続けた。


「桁外れの才能を有する者の中には、異性に無関心であったり、消極的であったりする者がいるらしいのです。そして、その事は別に歴史上珍しいことではありません。万有引力を発見したかの高名な物理学者も、生涯異性とは関係を持たなかったと聞きます」


 彼女の言う通り歴史上の偉人の中には、生涯異性と関係を持たなかった者も少なくはない。


「あの方もそうだったのかもしれません」


 クレールはそう言うと、懐かしい表情をして紅茶を飲む。

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