二人の過去 ルイ編 その1
10歳になった僕は、少し早い社交界デビューのために、父に連れられて王宮の宮廷晩餐会に来ていた。
しかし、10歳の子供には宮廷晩餐会など退屈で仕方がなく、早く帰りたいと思いながら料理を食べる。
そこに父親がやってきて、何でも国王一家が社交界デビューした自分とお会いくださるそうだ。
「陛下。我が息子とお会いくださり、恐悦至極でございます。今宵のことは我が息子の生涯の誉れとなるでしょう」
父親がこのようなことを言っていたが、国王様と王妃様の前で緊張していた僕はよく覚えておらず、お二人が何かお声を掛けてくれていたがそれもよく覚えていない。
「先程まで、フランがそこに居たのですが… どこに行ってしまったのかしら? ルイ、あなたより2歳年下なので、仲良くしてあげてね」
王妃様がそのような事を言っていたのだけは覚えている。
父親も「お近づきになっておけ」と言っていたが、10歳の僕ではあんな怖い目をした少女とまともにお話できる気がせず、僕はフラン様に会う前に会場から逃げ出していた。
何故なら、あの頃のフラン様は子供が遠くから見ただけでもわかる怖い目をしていたからで、その目は今も時折見せる瞳から輝きが消え、瞳孔が開いている今の僕が見ても怖い目であり、当時のフラン様はずっとあの目をしていて、この時の僕は”あんな怖い目をした子とは、仲良く出来る自信がないです”と、思ったからだ。
そして、当然広大な王宮で迷子になってしまい宛もなく歩いていると中庭に出てしまう。
今にして思えば、あの広い王宮で中庭に辿り着いたのも、中庭を歩き出したのも何かの運命だったのかもしれない。
何故なら次の瞬間、樹の下で月明かりに照らされながら、本を読む美しく神秘的な少女が僕の目に映ったからである。
その少女は綺麗な銀色の髪と白い肌で、顔立ちも凄く整った人形のような美少女で、銀色の髪と白い肌は月の光りで更に輝いているように見えており、その姿はまるで僕が今まで見てきた小説や漫画から抜け出してきたような存在で、僕は思わず息を呑んで見とれてしまう。
ただ、目はあの怖い目のままだった。
すると、フラン様が突然本を自分の顔の前に持ってきて、体を震わせ怯え始める。
その表情は、あきらかに恐怖に支配されており、僕は何事かと思って近くまで駆け寄ると、フラン様が木の上から糸で下りてきた蜘蛛に怯えていることに気付く。
不謹慎ではあるが、僕は蜘蛛に怯えるフラン様を見て、初めて年相応の少女の一面を持っていると思い、仲良く出来るかもしれないと感じる。
僕はすぐに近くに落ちていた小枝を拾うと、それを蜘蛛に近づけて蜘蛛が小枝に乗り移るのを確認すると、直ぐに少し離れた茂みまで連れて行き蜘蛛を逃がすことにした。
蜘蛛を逃した後、フラン様の元に向かうと彼女は少し俯きながら、本を持っていない左手でソワソワした感じで肩まである綺麗な銀髪を触った後、
「たっ 助かった。礼を言う… ありがとう…」
そうお礼の言葉を言ってきたが、その後に俯いていた顔を上げて僕をあの怖い目で見てくる。
(こっ 怖い!!)
僕は思わず逃げ出したくなるが、そのようなことをすれば、後で問題になるのは子供心でもわかった。
「あっ いえっ そのようなお言葉もったいないです… 恐縮です」
必死に恐怖に耐えながら、フラン様に返答するが、怖くて目だけは合わせられない。
しかし、近くで見ると目は怖いけどその姿はやはりとても神秘的で、僕は怖い目を見ないように失礼ではあるが、チラチラとそのお姿を見てしまう。
すると、フラン様はその事に気付いて、気に触ったのか抗議してくる。
「何だ!? さっきから、チラチラ見て! キサマが私のこの珍しい姿に興味を持つのは理解できるが、目を合わせようとしないのは少し失礼ではないか?」
「もっ 申し訳ありません…」
(僕が目を合わせようとしないばかりに、フランソワーズ様を傷つけてしまった…)
僕が申し訳なく思っていると、それが表情に出ていたのか優しいフラン様は、僕の気持ちを察して
「まあ、私のような気持ちの悪い姿をした者とは、目は合わせたくはないであろうな。子供とは正直なものだ……」
自嘲気味にこのような事を言ってくるが、その表情は明らかに曇っていた。
その表情を見た時、僕の胸はズキンと痛む。
僕は愚か者だ!
自分の心が弱いばかりに、自分よりも幼い少女を傷つけてしまった…
彼女はその人とは違う容姿から、周囲の大人達から奇異な目で見られ、今まで心に傷を負い続けて来たに違いない……
そして、僕が目を合わせないことから、同じ子供の僕まで自分をそう思っていると思って、傷ついたに違いない。
でも、それは違う!
他の者達はどうかわからないが、フランソワーズ様のお姿はとても神秘的だし、僕にとっては大好きな小説から、飛び出してきたような素敵で魅力的な女の子だ!
子供だった僕は、自分の気持ちを上手く言葉に出来なかったが、フラン様に思いの丈をぶつけた。
「違います! フランソワーズ様のお姿が、あまりにも神秘的で…、 失礼とは思いましたが、思わず見てしまいました! 気持ち悪いだなんて、そんなことはありません! とても、魅力的で素敵だと思います!!」
だが、当然フラン様からは、目を合わせないことについて、質問が返ってくる。
「そのように好意的な目で見ていたなら、どうして目を合わせようとしない?!」
ここで、下手に誤魔化せば頭のいいフラン様に、今までの僕の言葉全てが嘘だと思われてしまうだろう。
なので、僕は正直に目が怖いことを伝えることにした。
「はい、失礼だとは思いますが、正直にお話します! 目と… 目付きが怖いからです!!」
「私の目と目付きが怖い!!?」
フラン様にとって、僕の理由は思いも寄らないモノだったらしく、とても驚いた表情をしている。
(自覚していなかったんだ…)
僕がそう思っていると、フラン様は本を持つ右手とは逆の空いている左の手を目の前に持っていき、目を隠してくれる。
「これなら、怖くないか?」
「はい!」
僕は元気よく返事をするが、フラン様が自分で目を隠す姿に、コレはコレで気が引けてしまう。
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