二人の過去 ヤンデレ殿下編 


 いつからだろう、気付いた時には私には他人が心の奥で何を考えているのかが、その者との会話、仕草、表情、目の動きなどで、推測できるようになっていた。


 最初は両親、次に親類、その次は周りの侍従たち、そして権力欲しさに言い寄ってくる臣下…


 その推測は、そうやって経験を積む度に精度を増して、高確率で当たるようになってきた。


 当たっていたかどうやって解るのか? この世には盗聴器という便利なモノがあるし、カマを掛けてやれば、それ相応の反応をしてくれる。


 我ながら、嫌な子供だったと思う…


 10歳になった頃には、経験則と会話技術によって、ほぼ的中できる程になっていた。


 だが、私がこの技術で得たモノは、この色素の抜けた私への忌諱の感情と、権力者達の欲深さと醜い心であった。


 私はいつしかこの世界が恐ろしく汚く醜く見えてしまい、<こんな世界、人間と共に滅びてしまえばいい>と考えるようになり、その考えはいつからか<私が滅ぼす>となっていく。


 そのためには、どうすればいいか考えるようになり、まずはこの国の権力を握ることだと考え、そこで推考した策が後の腐敗した旧体制を一掃した改革へと繋がっていく。


 その頃から、金髪の人形みたいな可愛らしい従姉妹が、私に憧れの眼差しを向けながら、近寄ってくるようになるが、正直鬱陶しかった。


 更に鬱陶しいのは、リュシエンヌ・レステンクールとかいう者だ。

 歳上なのを良いことに、何かと姉振って構ってくる、臣下の娘のくせに!


 まあ、私が権力を握った時には、二人は手駒に使ってやってもいいだろう。


 だが、そんなある日、私は運命の出会いをすることになる!


 そう、あの日は時を戻した私が8歳の時、国庫の浪費にしかならない宮廷晩餐会の日であった。


 私は意味のない臣下からの挨拶とリュス、シャーリィの相手をするのが嫌になって、中庭に逃げ出す。


 自室に戻らなかったのは、今夜は月明かりが綺麗だったので、その中で本を読もうと思ったからである。


 私が樹の下に腰を掛け、『戦争論』を読んでいると、そこにあの忌々しいモノが頭上から姿を現す! そう『蜘蛛』だ!


 私は昔から虫が苦手であり、特に蜘蛛は大嫌いである。


 その蜘蛛は、私の顔から数十センチの所に頭上から見事な奇襲を行い、不意を突かれた私は成す術もなく本を盾にして、その場で恐怖に身を震わせ怯えるしかなかった。


 そこに颯爽と現れたのが、10歳のルイであった!


 ルイはその辺りに落ちていた小枝を拾い、私の目の前であざ笑うかのように宙吊りになっている蜘蛛を、その小枝に乗り移させると少し離れた茂みまで連れて行き蜘蛛を逃がす。


 しかし、そんなルイの勇気ある姿と優しい姿を見て、一瞬心ときめいてしまうが、即落ちするほど私は甘い女ではない。


 だが、助けてくれた事には、礼を言わねばならない。


「たっ 助かった。礼を言う… ありがとう…」

「あっ いえっ そのようなお言葉もったいないです… 恐縮です」


 そう謙遜したルイであるが、私と目を合わせようとしないし、怖がっているように見える…

 そうか、彼も私の姿を見て、内心では忌みているのか…


 私はそう思うと、ルイへの興味を一気に失うが、彼がチラチラと私を見ていることに気付く。

 ただ、目は合わせようとはしない。


「何だ!? さっきから、チラチラ見て! キサマが私のこの珍しい姿に興味を持つのは理解できるが、目を合わせようとしないのは少し失礼ではないか?」


「もっ 申し訳ありません…」


 ルイの態度に私がそう強い言葉で問い質すと、彼は本当に申し訳無さそうな顔をして謝ってくるので、子供相手に言い過ぎた反省して、自嘲気味にこのような事を言ってしまう。


「まあ、私のような気持ちの悪い姿をした者とは、目は合わせたくはないであろうな。子供とは正直なものだ……」


 自分もまだ子供のくせに達観したこの言い方… 今にして思えば、ヒネた子供だったと思う。


 私のそんな自嘲気味の言葉を聞いたルイは、ようやく私と目を合わせると、怯えながら熱い思いを乗せて反論してくる。


「違います! フランソワーズ様のお姿が、あまりにも神秘的で…、 失礼とは思いましたが、思わず見てしまいました! 気持ち悪いだなんて、そんなことはありません! とても、魅力的で素敵だと思います!!」


「そのように好意的な目で見ていたなら、どうして目を合わせようとしない?!」


 私がすぐさまこの矛盾を突くと、ルイは怯えながらこのような言葉を返してくる。


「はい、失礼だとは思いますが、正直にお話します! 目と… 目付きが怖いからです!!」

「私の目と目付きが怖い!!?」


 私はルイのその思いがけない言葉に驚くが、よくよく考えれば、<世界を、人間を滅ぼす>などという馬鹿な考えを持った者の目が普通なわけがない。


 自分でも気づかない内に、ルイが怯えるような目で世界を見ていたのであろう。


「これなら、怖くないか?」


 私は再びルイに興味を持つと、彼ともう少し話がしたいと思って、本を持つ右手とは逆の空いている左の手を目の前に持っていき、目を隠すことにする。


「はい!」


 ルイは元気よく返事をすると、目を輝かせて私の姿を見ている。

 私は指の隙間から、ルイの姿を観察しながら、会話を投げかけてその本心を推察しはじめる。


「先程、私の姿が魅力的だと言っていたが、珍しいからか?」


「珍しくないといえば嘘になりますが、月明かりに照らされて本を読むフランソワーズ様のお姿が月の光りで、その綺麗な銀色の髪と白い肌が輝いて見えて、まるで物語の登場人物が本から出てきたような神秘的なお姿で― 」


 ルイは目をキラキラさせながら、自分の想いを伝えてきてくれるが、いかんせん興奮しているので、会話の内容が纏まっていないが、その目は今まで私を奇異の目で見てきた者達とは違い、本心で私の容姿を褒めてくれている目で、私はその事が嬉しかった。


「あぅ!? 目が怖い!!」


 たまに指の隙間から、覗く私の目と目が合うと怯えるがルイとの会話は楽しかった。

 あれ? 今も私の目を怖がっている時がある気がする…


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