宿敵登場? 04
フランの自己紹介を受けたアーサリンは、早速本題の降伏勧告をおこなう。
「申し上げにくいことですが、勝敗は既に覆り難くこれ以上の交戦は無意味であり、犠牲者が増えるだけであると思われます。陛下には、愛すべき臣下の為にも、ご英断を求めます」
「折角の申し出だが拒否させて貰おう、ウェルティ元帥。我軍はまだ完全敗北したわけではないのでな」
だが、フランは直ぐにこのように答える。
「それは、残念です、陛下…」
「貴官と話せてよかった、これにて失礼する」
フランは残念そうにするアーサリンに対して、最後にそう伝えると通信を切らせた。
通信を切った直後、崩れるように指揮席に座るとフランはウィルに、意地悪な笑みを浮かべながらこのようなことを言う。
「総参謀長、後ろにいた者の方が、余程総司令官に見えたな。我らはあのような緩そうな者に、いいようにしてやられたわけだ… だが、最後までいいようにはやらせはしないがな!」
フランは展開していた前衛艦隊を自分の本隊まで後退させると、それを追って前進してきた前方と右翼の敵艦隊に、温存していた予備兵力と皇帝親衛艦隊で逆に攻勢を掛けた。
そのまま撤退すると思っていた敵艦隊は、思わぬ攻勢を受けて浮足立ち被害を出すと前進を停止させる。
その間に、フランは後退させた前衛艦隊に残り最後の補給を行わせると、予備兵力と皇帝親衛艦隊を一度下げ、代わりに前衛艦隊に攻勢をかけさせ、敵艦隊にさらに圧迫を加えさせた。
2度に渡って後退と見せかけての攻勢に、敵前線司令官は疑心暗鬼にかかり、前進を完全に停止させてしまう。
その期にフランは、今度こそ本当に前衛艦隊を戦場から離脱させて撤退を成功させる。
アーサリンもすぐさま対応策を指示するが、大軍であるために指示の伝達が遅く、アーサリンの指示が行渡るより先に、フランが次の行動をとるため、英蘭の前衛艦隊の動きは後手に回ってしまう。
それに比べガリアルム艦隊は数では圧倒的に不利であったが、少数ゆえにフランの指揮が直ぐに艦隊全体に伝わり、その天才的指揮を素早く艦隊行動に連動できたため、先手を取り続けることができた。
その天才の繰り出す艦隊戦術に、敵前衛艦隊の司令官達では対応しきれず、フランは敵がそのような状況下の内に、予備兵力と皇帝親衛艦隊に絶妙なタイミングで最後の攻撃を加えさせて、敵が怯んだ隙に戦場の離脱に成功する。
こうして、ガリアルム艦隊はワーテルローから、残存兵力を秩序だって撤退させることに成功するが、この戦いの敗北は決定的であり、いうなればこの撤退は用兵家としてのフランの最後の意地であり矜持であった。
「陛下、お見事な撤退戦でした。やつらに、我が帝国の意地を見せつけることが出来たでしょう」
主星パリスへ航行中、撤退戦の指揮を終え指揮席に座り休憩するフランに、ウィルが声を掛けるが項垂れるように頭を深く下げた彼女からは返事が無い。
ウィルはその異変に気付いて、無礼とは思いつつ彼女の顔に自分の顔を近づけると、彼女は虚ろな目で息も絶え絶えとなっている。
フランは先程の撤退戦で、命の炎を燃やし尽くしてしまっていた。
「陛下!! お気を確かに!!!」
ウィルは彼女の意識を途切れさせないため、艦橋に響くぐらい大声で話し掛けるが、フランは弱々しい手で内ポケットから写真を取り出すと、それを見ながら今にも消え去りそうな儚い声で最後の言葉を発する。
「私は… 道を間違えたのかも知れない… だが、精一杯生きた… 総参謀長… 邪魔しないでくれ… ようやくルイの元に… みんなの元に逝けるのだ…… 」
その後、彼女は二度と動くことはなく、ウィルは黙って敬礼し艦橋の人員は、ある者は同じように言葉を失いながら敬礼し、ある者は泣き崩れながら、若い偉大なる支配者の最後を看取った。
そこで、目の前の映像は明りと共に消えて、辺りは再び暗闇が支配する。
「何だ、これは?! 僕は何を見せられたんだ!? どうして、フラン様があんな事に!!」
ルイはフランの最後を見せられて、酷く動揺し混乱してしまう。
「これは、夢なのか!? それとも… 」
夢にしてはあまりに悪質過ぎる、ルイはこの状況を分析していると辺りが急に明るくなり、眩しいと目を瞑り次に瞼を開いた時、そこに映った風景は薄暗い天井であった。
何か悪い夢を見ていたような気がするが、今となっては思い出せない。
ここが何処なのか知るために、首を動かして辺りを見渡すと周囲には医療機器が並べられており、何より自分の口に酸素マスクが取り付けられているので、ここが病室であることに気付く。
ルイは酸素マスクを取り外すと、ベッドから上半身を起こすとするが、腹部に痛みが走りベッドに逆戻りになってしまった。
彼がベッドでジタバタしていると、監視カメラで様子を窺っていた看護師の報告を受けた軍医がやってきて、問診や診察をおこなう。
気づくとガラス窓の外から、フランがアワアワと心配そうに中の様子を見ている。
そして、ルイの診察を終えた軍医が、集中治療室から出てくると何か話を始めて、言い争いを始めた。
「どうして、直接会えないんだ!?」
「意識が回復したばかりであり、傷口もまだ治っていないので、まだ面会はお控えになったほうが…」
軍医が慎重になるのも無理はない、彼はジャック・ブラックモンによるルイの手術が終わった後に事後経過を任された者で、その時にフランから
「ルイが死んだら、お前を殺す! 殺さなかったとしても、辺境惑星のこれまた辺境の島に意味のない監視所を作って、そこで一生海鳥を観察させてやる!」
このような冗談なのか発破を掛けるつもりなのか、解らない恐ろしい事を言われており、自分の責任にならないように、慎重に慎重を重ねるしかなかった。
フランは本人が覚えていない自分の過去の発言によって、ルイとの面会が数日後に伸びることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます