宿敵登場? 03
「私ね~ この戦いが終わったら~ 政治家になろうかな~ って思っているの~」
「アナタが政治家!? どうして、またそんな事を?」
親友の思いもよらぬ突然の告白に、クレアがその理由を尋ねる。
「だって~ 政治家さんって~ 議会中に寝ていても~ 怒られないし~ お金も貰えるのよ~」
すると、アーサリンは冗談か本気かわからない志望理由を述べてきた。
「いや、今は普通に怒られるし、世間にもネットで叩かれるし、最悪解任されるわよ? それに、仕事は議会だけではないわよ」
「そうなの~ じゃあ、やめておくわ~。それなら~ 今のほうが~ 戦いがない時は~ のんびりできるし~ お昼寝も出来るし~ いいわね~」
「その分、私に皺寄せが来ているけどね(怒)(怒)(怒)!!!」
アーサリンのその呑気な言葉を聞いたクレアは、怒りの余りに一瞬殺意を覚える。
「そう言えば、アーサリンはフランソワーズ・ガリアルム殿下には会った事ある?」
「まだ、ないわね~」
「まあ、私も直接お会いしたことはなく、殿下が我が国の王立士官学校に留学なさっていた時に、遠くから見ただけなんだけどね。当時はまだ16歳だったと思うけど、常人には無い覇気は感じたわよ… それに見た目も凄く神秘的で、素敵だったわ」
「へぇ~ そうなんだ~。わたしも~ 会ってみたいわね~」
アーサリンは紅茶を飲みながら、そう答えるとまだ会ったことの無いフランとの邂逅を楽しみに感じてしまう。
果たして、フランとアーサリンが出会うのは、宮殿になるのか戦場になるのかは、今は誰もわからない。
「あれ? ここは… 」
ルイは気づけば、真っ暗な中に佇んでいた。
「僕はマレンの戦いの最中に負傷して… それで…」
どうして、こんな所にいるのか記憶を辿っていると突然目の前が明るくなり、その中に見覚えのある人物が二人映し出されている。
「フラン様!? いや、僕の知っている今のフラン様ではない。少し成長している…」
目の前に映るフランは20代中頃ぐらいに成長しており、服装も今のようなゴスロリを改造したようなモノではなく、黒一色の喪服を連想させるデザインの軍服を着用していた。
髪も現在のようなロングではなく、比較的手入れの簡単な肩までのボブになっている。
そして、印象的なのはその顔であった。
成長して、大人の美しい顔になってはいるがその表情には影があり、何よりメイクで誤魔化しているが憔悴している。
どうやら、このフランはその伸し掛かる重圧と心労のためか、病んでいるようだ。
指揮席に座るフランは、厳しい表情で戦術モニターを見ており、ルイも見てみるとガリアルム軍は正面と右翼側面から攻撃を受けており敗走寸前であった。
「Waterloo(ワーテルロー)…」
ルイは何気なく戦術モニターに映し出されている惑星名を呟く。
「総参謀長、クルーゾーはまだ引き返してこないのか?」
「連絡シャトルは送りましたが、未だに戦場には到着する様子はありません。どうやら、陛下の当初の命令であるプルーセン艦隊追撃を遵守しているようです」
そう答えたのは、30代前半になったウィリアム・バスティーヌであり、どうやら総参謀長を務めているようである。
(ウィルさんも今より年齢が上っぽいな。総参謀長は、クレールさんではないのか…)
ルイがそう思っていると、フランは指揮席の肘掛けを叩いて、
「ルイなら、引き返してきた!!」
いつも冷静沈着な彼女らしくなく怒りを顕にする。
すると、フランは怒りで興奮したせいか、突然激しい咳きを始めた。
咳がおさまり、口にあてていた手を見ると真っ赤な血が付着している。
彼女の白い肌に赤い血は余計に目立つ。
「フラン様!!」
ルイは思わず映像に向かって、そう叫んでしまうが当然向こうに聞こえない。
「陛下!!」
「大丈夫だ… そう喚くな…。総参謀長がこれぐらいのことで、冷静さを欠いてどうする…」
まだ少し肩で息をしているフランは、そうウィルを窘めるとハンカチを取り出して、手と口元の血を拭き取ると、その血の付いたハンカチを見つめながらこのように呟く。
「ルイが生きていたら… こんな事には… 私はこんな所には……」
手に持ったハンカチを見つめてはいるが、それは失ってしまった過去の楽しかった頃を見ているような目であり、その様子をウィルは声を掛けることもできず、黙って見ているしかなかった。
「フラン様…」
そして、ルイもそう呟くことしか出来なかった。
フランは直ぐに冷静さを取り戻して、髪を掻き上げるとウィルにこのように話しかける。
「しかし、敵の総司令官アーサリン・ウェルティ元帥は、隙を見せないな。流石は貴官をエスパーニア戦線で苦しめただけはあるな」
「御意…」
エスパーニア戦線で、アーサリンと何度も戦い最後には敗れてしまったウィルは下を向いて、そう答えるしかなかった。
そこに通信兵から敵総司令官より、降伏を薦める通信が入ったと報告が入る。
「降伏勧告か…。いいだろう、アーサリン・ウェルティ元帥とは、一度を話したいと思っていた。通信を繋げ」
フランの指示を受けたオペレーターが、目の前の立体スクリーンに通信を繋ぐと、そこに薄い金に近い茶色の肩より少し長いウェーブミディアムの赤い軍服を着用した女性が、敬礼している姿が映し出される。
本人は最高にキリッとした表情のつもりだが、若干緩い印象は受けた。
そして、彼女の後ろには黒に近い茶色の髪をアップヘアに纏めた、言われなければ<こちらが総司令官>と勘違いしてしまう凛々しい女性が同じく敬礼して立っている。
「皇帝陛下、お目にかかれて光栄です。私は英蘭連合軍総司令官アーサリン・ウェルティ元帥です」
アーサリンが自己紹介すると、フランも指揮席から立ち上がり自己紹介をおこなう。
「ガリアルム帝国皇帝フランソワーズ・ガリアルムである」
両雄はここで、最初で最後の直接的な会話をすることになる。
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