ベーブンゲンの戦い 05
前面のヨハンセン艦隊を気にして、後退を続けていたオソロシーヤの右翼艦隊は、エリソンの艦隊がこちらに移動してくる事に気付く。
「全艦反転! 敵艦隊に背後を取られる前に、この場を急速離脱する!」
このまま呑気に後退していては、左翼艦隊同様に挟撃されてしまう。
右翼艦隊を任されていたステプキン少将は、敵前回頭して被害を受けたとしても、挟撃を受けるよりは遥かに被害は少ないと考え艦隊に回頭命令を下す。
「今だ、全艦は回頭する敵艦隊にありったけのビーム、ミサイルを撃ち込め」
敵前回頭により、シールド面積が増えてエネルギー消費が増えた敵艦隊は、ヨハンセン艦隊から放たれたありったけのビームやミサイルを受け、シエネルギーを一気に失いシールドを維持できずに次々と爆散していく。
敵右翼艦隊は3分の1の被害を出したが、エリソン艦隊に挟撃を受ける前に離脱を成功させる。
先程まで挟撃されていた敵の左翼艦隊は、既に潰走状態になっていて統率が取れなくなっていた為に、背後のエリソン艦隊が居なくなって、我先にと各艦が敵前回頭して逃げ出したので更に被害を出していた。
そして、最後に残されたプロヴェラ大将率いる3000隻のネイデルラント防衛艦隊は、正面をロイク艦隊、左側面を前進してきたコルトハード艦隊から攻撃を受けて、後方からエリソン艦隊が迫ってきた10分後に降伏を申し込んでくる。
こうして、仏英艦隊 対 露墺艦隊の会戦 <ベーブンゲンの戦い>は、名将ホレス・エリソン中将の不屈の闘志で成功させた中央突撃によって、勝利を引き寄せ仏英艦隊の勝利に終わった。
本来なら、総司令官が同じ戦場に二人いる軍は、指揮系統が一本化しないために連携が上手く行かずに敗北することが多い。
だが、名将であるヨハンセンとエリソンは、お互いの考えを理解して行動することが出来たために、結果上手く連携する事ができ勝利することが出来た。
それに対して、露墺艦隊はコルスノフとプロヴェラの連携が余り上手く行かず、そのためプロヴェラは後退のタイミングを失って、艦隊を包囲され降伏する事になってしまう。
コルスノフに至っては、己の保身から最後は部下とも連携を取らずに一人だけで後退して、味方に余計な犠牲を出してしまった。
第一次対仏大同盟最後の戦い<ベーブンゲンの戦い>は、こうして多くの残骸と兵士達の犠牲を出して幕を閉じることになる。
仏英艦隊の被害は、戦闘に参加した15700隻のうち、撃沈306隻(主にエリソン艦隊)、大破532隻、中破865隻、小破4598隻
露墺艦隊の被害は、戦闘に参加した16500隻のうち、撃沈5785隻、大破118隻、中破2172隻、小破6087隻、降伏1322隻であった。
被害を見ても解るように、勝利した仏英艦隊の被害も決して少ないものではなく、この戦いが如何に厳しいものであったかが窺える。
敗走する露墺艦隊を追撃したかったが、その余裕はどの艦隊にも無く追撃を諦めるしか無かった。
麾下の艦隊へ負傷者の治療と損傷艦の修理、補給と索敵の指示をあらかた出したヨハンセンは、同じく指示を出しているエリソンに通信を送る。
「閣下。旗艦が被弾したと報告を受けましたが、ご無事ですか?」
「ああ、幸運なことに右腕の義手を失うだけで済んだよ」
そう言って、エリソンは着替えた軍服の右腕を上げて見せると、腕がないために右袖は垂れ下がっていた。
「ご無事でなりよりです。閣下と勇敢なエゲレスティア軍兵士の決死の突撃のおかげで、勝利を得ることが出来ました。その勇気に艦隊を代表して敬意を評します」
「いえ、貴軍の艦隊が数的不利を物ともせずに、両翼の敵を拘束し続けてくれたお陰です」
二人はお互いの艦隊の働きを褒め合うと、損傷艦の応急修理が済みしだい、補給と修理体制の整っているストラーブールまで、後退することを決めて通信を切る。
そして、エリソンとの通信を終えた後、ヨハンセンは続けて戦いの結果を報告するために本国に通信をおこなう。
通信を終えたヨハンセンは勝利したにもかかわらず、あまり嬉しそうにしていない
「勝ったのに、あまり嬉しそうではありませんわね?」
そのヨハンセンの様子に気付いたシャーリィが、紅茶をいれながら尋ねると彼はこう答える。
「今回は味方にもかなりの被害がでました。なので、手放しでは喜べないのです…」
ヨハンセンはそう答えると、残骸の映るモニターを見つめ続けた。
その頃、フランはピエノンテ公国から呼び寄せたワトーの艦隊とロマリア王国の国境付近に避難していたタルデューの艦隊に、ロンバディア星系惑星ミナノを抑えさせ、ドナウリアとロマリア艦隊と睨み合っているゲルマニア諸国連合艦隊への牽制とすると、自身は消耗した遠征艦隊を率いてピエノンテの首都星トリーノへと移動を開始する。
艦隊はその被害の大きさに勝利の喜びで沸き立っておらず、凱旋とは思えない粛々とした進軍であった。
そして、その航路でフランはクレールから、ライン方面での勝利の報告を受ける。
「7月1日、バーデ=ヴィルテンベルク星系惑星ベーブンゲン宙域において、仏英艦隊が露墺艦隊と会戦して、約1時間半の交戦の後勝利したとのことです」
「そうか…。ヨハンセン、アングレーム両提督が勝利したか。それで被害は?」
「我軍の被害は、撃沈93隻、大破245隻、中破4215隻、小破2718隻となっています」
「まあ、我が艦隊に比べれば、マシな被害だな」
フランはそう答えると補給艦に補給物資と共に、次々と送られてくる書類の決裁を行いながら、時折机に置いている中型の携帯端末に目を向けている。
ルイは、未だに集中治療室で意識が戻らず面会謝絶になっており、フランはその不安を忘れようとする為か、集中治療室に行ったのは一度だけで、後は滞っていた書類の決裁を朝から晩まで行っていた。
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