ベーブンゲンの戦い 04
コルスノフ大将の2000隻の迎撃の中、中央突撃を行うエルソン中将率いる3000隻は激しいビームを受けながら、ビームで応戦しつつ突撃を続ける。
正面突撃は諸刃の剣であり、最大船速で攻撃をしながら前進するため、その推力にエネルギーを費やさねばならない突撃側の方がエネルギーの消耗が激しくなり、撃ち負ける事が多く現在の戦いではなかなか行われない戦法であった。
しかし、成功すればジワジワ戦線を押すより、相手が対応するより早く相手の背後を突けるため、戦況を一気に有利にすることが出来きるのでリスクも大きいがリターンも大きい。
中央突撃する3000隻の突撃艦隊は、数の優位で何とか被害を抑えていたが、前述の理由で少しずつ被害が増えていく。
そして、突撃艦隊の前方の位置にいて、敵の猛攻を受け続けたエリソンの座乗する旗艦ヴァンガードも、遂にシールドのエネルギーを使い切ってしまう。
「シールドエネルギーゼロ!」
「直撃きます!」
エネルギーシールドを失ったヴァンガードに、ビームが直撃して艦を大きく揺らすと、それと同時に艦内に爆発が起きる。
旗艦は通常の艦より大きくバイタルパートを防御設備で頑丈にしているため、ビームを1~2発受けても撃沈することはない。だが、当たりどころによっては、ルイの時のように艦橋まで爆発が到達することもある。
そして、不幸にもヴァンガードもそれが起きてしまい、艦橋の一部が爆発してその破片がエリソンを襲う。
「くっ!?」
「閣下!!」
金属の破片はエリソンの右肘から下を切り裂くと、そのまま彼の背後の地面に突き刺さる。
「心配するな、この右腕は元から義手だ」
だが、エリソンはルイと違い運が良く破片は彼の生身ではなく、以前失った義手をその餌食としたのであった。
エルソンの背後の床には、数分まで彼の右腕であった破損した義手が転がり、それを切り裂いた金属の破片が突き刺さっている。
彼はそれを一瞥した後に、副官のウィリアムに笑みを浮かべながらこう言い放つ。
「それにしても、この仕事はなんて素晴らしいのだ。我々の誰であっても、今日という日がいつ最後の日になるかわからないのだから… だが、ウィリアム。私は戦場(ここ)を離れない」
エリソン中将はそう不退転の決意を現すと、片腕のまま応急修理をしている艦橋で突撃の指揮を続ける。
味方の艦が代わる代わる前方に出て盾となってはいるが、本来なら総司令官の旗艦が損傷すれば離脱して修理するのだが、損傷した旗艦ヴァンガードは司令官の苛烈な意思が宿ったかのように、ビームが飛び交う戦場を応急修理しながら突撃を続けていく。
迎撃側が有利とはいえ、数で劣るコルスノフ大将の艦隊は、その迫りくる突撃艦隊の圧を受け少しずつ後退を始める。
この後退に戦術的な意味はなく、圧力に負けて下っているものであり、そうなるとその先の結果はおのずとこうなってしまう。
「指揮下の艦が勝手に、逃亡を開始しました!」
「何!?」
突撃艦隊の圧力に負けた艦は、撃沈される前に一隻また一隻と戦場を離脱し始める。
そうなると後は堰を切ったようにコルスノフ大将が率いる艦隊から、次々と所属艦が離脱していき残った艦は約半数となってしまい、迫り来るエリソン艦隊に対して組織だった迎撃ができなくなってしまう。
コルスノフ大将は、決断を迫られる。
このまま残った艦を率いて、ここで踏みとどまって玉砕するか
それとも自分も離脱するか…
「我が艦隊は、一度大きく後退して態勢を立て直す! 急げ!」
「閣下! 両翼の味方を見捨てるおつもりですか!?」
コルスノフの命令を聞いた参謀のマトヴェーエフは、すぐに味方を見捨てようとしている司令官に問い質すが、彼から後ろめたさを誤魔化すためか怒気の籠もった声でこう返ってくる。
「聞いていなかったのか!? 私は一度後退して、態勢を立て直すといったのだ! 立て直せば戻ってくる! それまで、持ちこたえるように伝えろ!」
コルスノフ大将の考えはこうである。
ここで踏み止まっても玉砕するだけであり、両翼のどちらかと合流しても突撃を成功させた敵艦隊がどちらかを挟撃して、壊滅させるであろう。
そうなれば、戦況は敵に大きく傾き立て直すのは至難である。――というより、ほぼ無理である。だが、撤退命令を出せば、この敗戦を認めたことになって、自分の責任になってしまう。
そこで、自分はあくまで後退して、この壊走しかかっている艦隊を立て直す。
その間に両翼艦隊が持ち堪えられずに撤退するのは、その司令官の責任であるという事であった。
「閣下……。被害を最小限にするためにも、全艦に撤退命令を…」
マトヴェーエフはこの状況下では全軍撤退して、せめて味方の被害を最小限にするべきだと考え、上官に諫言するが彼からは信じられない言葉が返ってくる。
「撤退命令だと!? キサマは我軍が既に負けていると言いたいのか!? 誰かこの敗北主義者を摘み出せ!」
マトヴェーエフを貶めて艦橋から追い出したコルスノフは、直ちに残った艦を率いて後退を開始した。
「閣下。敵中央艦隊が、後退を開始しました!」
「よし、我が艦隊は進行方向を時計回り進み、敵左翼の背後に回り込みコルトハード艦隊と挟撃する!」
中央突破を成功させたエリソン艦隊は、その勢いのまま敵の左翼艦隊の背後に向かうとコルトハード艦隊との挟撃を始める。
前後から猛攻を受けた敵右翼艦隊はこれまでの激戦の疲弊もあり、僅か10分で艦隊の半数以上を失う。
「決まったな…」
その様子をモニターで見ていたヨハンセンは、一人こう呟くと数分後に彼の艦隊と対峙している敵右翼艦隊は、これ以上戦闘継続をすれば今度は自分達が挟撃されると判断して後退を始める。
「全艦攻撃を少し緩めて物資を温存せよ」
ヨハンセンはモニターを見つめながら、冷静な口調でこのような命令を艦隊に下す。
その理由は―
「この敵左翼艦隊はもういい。急いで今度は後退する敵右翼艦隊の背後、もしくは側面を突く!」
エリソン艦隊が後退する敵右翼艦隊の動きを察知すると、直ぐに反転してその背後を突くべく最大船速で移動を開始したからで、ヨハンセンはエリソンなら半壊状態の敵左翼より、後退する右翼に目標を変更すると推察したからである。
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