ソンム星系の戦い 01




 クレールによって、これから反乱が起きるとの情報を受けたユーリ・ヨハンセンは、すぐさま首都星系防衛艦隊を主星パリス周辺に集結させる。


 彼が艦隊を集結させた丁度その時、王宮から避難してきた国王夫妻の乗った特別艦を、ソンム星系の惑星ア二アンまで護衛する任務をクレールから受けた。


 そして、それと同時に特別艦から小型連絡艇で、彼の座乗する巡洋艦にやってきたクレールから今回の作戦内容の大まかな説明を聞かされる。


「なるほど、見事な作戦だ。その下準備の為に、我が艦隊に反乱軍艦隊から付かず離れずの距離を取りながら逃げ続け、更に機雷まで敷設しろというわけかい?」


「はい、その通りです閣下。理解が早くて助かります」


 ヨハンセンの嫌味を冷静な表情で受け流しながら、クレールはそう答えた。


(だが、この作戦がうまくいけば、味方の被害はかなり少なく抑えることができる)


「了解した。微力を尽くそう」


 こうして、彼はその卓越した指揮と艦隊運営で、与えられたこの任務を見事に果たす。


 反乱軍は、彼の巧みな艦隊行動に<そのうち追いつける><今日こそ追いつける>と思わされ、約二週間ずるずると追跡を続けることになる。


 そして、その二週間の内に何度も機雷を突破させて、反乱軍の機雷への警戒心を<また機雷原か>と思わせるほどに薄れさせる事に成功した。


 ヨハンセンはモニター越しに、人形のような神秘的な少女に敬礼すると、任務終了の報告をする。


「フランソワーズ王女殿下。護衛艦隊、只今到着しました」


 すると、彼女はこの国家の一大事である状況下で、その指揮を執っているにもかかわらず、その重圧をほとんど感じていないような冷静な態度で返事をおこなう。


「国王陛下の護衛任務と作戦の下準備の指揮ご苦労であった」


 その態度を見たヨハンセンは、一瞬にしてフランをこの様に分析する。


(私を艦隊司令官に任命したのは、この王女殿下だな…。その目的は、今回の任務をさせることか…。そうなると…、今回の反乱を見越していたということか。いや、今回の反乱そのものがこの方の差し金かも知れない…。どうやら、その綺麗な見た目と違って、中身はかなり怖い人物のようだ…)


(どうやら、今回の事を色々見抜いたようだな…。やはりかなり優秀だな…。問題は私がこの者を使いこなせるかだな…)


 ヨハンセンが分析しているのを見て、フランもその事を察して表情をこれ以上読まれないように洋扇を広げて顔半分を隠すと、彼もそれに気付いて報告を続けた。


「これより、我が艦隊は反乱軍に補足される前に迅速に機雷原を抜けて、合流を果たします」

「うむ。最後まで気を抜かずに上手くやってくれ」


 ヨハンセンはフランに敬礼をして、彼女の答礼を受けると通信を終える。


(ふぅ~。恐ろしい人だ……)


 通信を終えた彼はそう感想を抱くと、すぐさま艦隊を十列の縦隊にして、機雷原の穴を通過させていく。


 彼の艦隊の最後尾が機雷原の穴を抜けたその時、反乱軍が機雷原に迫ってきた。


「エティエヴァン公爵、敵の艦隊を補足。機雷原の中央に空けられている穴を通過して、向こう側に出たようです」


 副官の報告を受けたエティエヴァンは、艦隊に命令を飛ばす。


「ようやく捉えたか。よし、この機を逃すわけにいかん! 我が艦隊も最大船速でその穴に突入せよ!」


 だが、副官がすぐさまその命令に対して異議を唱えた。


「お待ち下さい、公爵閣下。これは明らかに罠です。敵は穴の出口で待受けて、穴を通過した艦を包囲して各個撃破するつもりです」


「そのようなことは、わかっている! あのような広大な機雷原を敷設することなど、100隻程度の護衛艦隊だけで出来るものか! だが、あの広大な機雷原を迂回などしていたら、また突き放されるぞ!」


 焦りに苛立つエティエヴァンに、副官は冷静に作戦を具申する。


「ここは、速度を落として行軍しながら機雷原の狭い穴に攻撃を加えて拡張し、更にそれと同時に他の侵入口も攻撃でつくり、その複数の穴から同時に機雷原に侵入して、迅速に突破する作戦でいかがでしょうか?」


 副官の作戦を受け入れたエティエヴァンは、艦隊を5つに分けて全艦一斉攻撃で機雷原に穴を空けていく。


「まだか!!」

「もう少しのご辛抱を」


 エティエヴァンが、焦り苛立つのも仕方のないことであった。

 ここで、時間を掛けて国王夫妻を取り逃がして、同盟国の【エゲレスティア連合王国】に逃げ込まれてしまえば、彼らに打つ手はなく逆賊として今度は自分達が追われることになる。


 国王夫妻に逃げられた時か、もしくは二週間も追撃せずに逃げ出していれば、国外脱出すも可能であったが、その追跡していた二週間の間に正規軍の先遣部隊は、主星パリスに到着しおり、更にこちらに進軍してきているであろう。


 反乱軍艦隊は、国王夫妻護衛艦隊が足の早い艦で構成されていて、その快速で逃げていることに気付くと、足の遅い戦艦や補給艦を途中で脱落させた。


 その為に正規艦隊と機雷原の向こうにいる艦隊に連携を取られて、追撃されれば補給艦のいない反乱軍艦隊は逃げることが難しくなるであろう。


 つまり今の彼らには、少しでも時間を無駄にせずに国王夫妻に追いついて、捕らえるしか生き残る選択肢は無いのである。


 思いの外時間の掛かる宇宙機雷処理に、焦れたエティエヴァンは処理作業を大まかに終わらせる命令を出すと、続けて侵入口に突入するように命令を出す。


「ええいっ、構わん! 少しぐらいの機雷はシールドで防御せよ! 偵察艦を先行させてから、各艦全速力で突入を開始せよ!」


 エティエヴァンの命令の元、反乱軍艦隊は偵察艦を先頭に5つの侵入口から、機雷原に突入を開始する。



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