ソンム星系の戦い 02
反乱軍艦隊は偵察艦を先頭にして、狭い機雷原の進入路を進軍してくる。
先頭を航行する偵察艦は、機雷を回避したり攻撃したりしながら進むが、後ろに続く隊列を組んだ艦隊には回避するスペースは無く、艦周辺に展開したエネルギーシールドで防御しながら、進入路出口を目指す。
偵察艦が機雷原の進入路を抜け出ると、そこには予測されていた敵艦隊の包囲陣はなく、その代わりに2万1千キロメートルの位置に布陣していた。
この2万キロメートルというのは、戦闘艦の主砲である粒子砲の平均の有効射程距離である。
エティエヴァンは機雷原を侵入中に、先行している偵察艦からの報告を受けた。
「妨害電波により、レーダーが使えないために光学システムでの観測出来る範囲になりますが、確認されている敵艦隊の数はおよそ300隻で機雷原出口の先、主砲の射程距離より少し外の約2万1千キロメートルの位置に、縦に三列の横陣で展開し更にその後方に100隻が、艦隊が同じく三列の横陣で展開しているとのことです」
副官の報告を受けたエティエヴァンは、副官に疑問をぶつける。
「どういうことだ? 数で劣る敵は本来なら数の不利を補うために、出口で包囲して各個撃破をするものではないのか?」
主人の疑問に副官は、自分の推察を述べた。
「敵前衛の数は約300隻。我が艦隊は戦艦や補給艦を落伍させたとはいえ、まだ450隻はいます」
副官は次のように考え説明する。
まず後方の100隻の艦隊は、自分達の追っていたもので兵の休息とエネルギーの補給を行なっていて、敵が現時点で戦えるのは前衛の約300隻であること。
現在の戦闘艦にはエネルギーシールドが搭載されており、粒子砲の攻撃とはいえ暫くは耐えることが出来ること。
一箇所の出口の包囲攻撃なら兎も角、五箇所同時の機雷原突破なら、撃ち減らされるよりも早く反乱軍の全艦が抜け出すことができ、逆に数の有利で押し返し更にはそこから逆転も可能であることを。
「このような理由で、敵は射程距離外で待機して時間を稼ぎ、後方の艦隊の補給が完了しだい攻撃するつもりなのでしょう。敵の補給が済むより先に我が艦隊の半分以上は、機雷原を出ることが出来るでしょう」
エティエヴァンは、副官の説明に納得して敵の攻撃はまだないと艦隊の前進を続ける。
だが、副官の考えの半分は当たっており、半分は外れていた。
「敵は恐らく数で劣る我らが攻撃してくるのは、後方の艦隊の補給が済んでからだと、予想しているであろう。補給をしているという予想は正しいが、本隊の攻撃タイミングは違う」
フランが<Destruction(撃滅)>と書かれた洋扇で扇ぎながら、ルイに作戦の説明を続ける。
「攻撃を仕掛けるのは、敵艦隊の約三分の一が機雷原を抜けた時だ」
フランはルイにそこまで説明すると、洋扇を閉じて立ち上がるとオペレーターに指示を出す。
「直ちに全艦に通信をつなげ!」
「はっ! ……繋がりました。王女殿下どうぞ」
フランはマイクを手渡されると、戦闘前に兵士達を鼓舞するために演説を開始する。
「諸君! この戦いは己が欲と権利と特権を守るために数十年、数百年掛けて我らが祖国を衰弱させてきた者達との戦いである。我らが負ければ、この国はそのような内から国を蝕む者達によってさらに衰勢し、虎視眈々と我が国を狙う周辺の列強に滅ぼされてしまうだろう! 我らの子孫達が、そのような辱めを受けないためにも、我らは必ず勝たねばない! その為にも、諸君達の一層の奮闘を期待する、以上!」
フランの演説を聞いた兵士達は、そのモニターに映る神秘的で麗しい王女の姿とその見事な演説を聞いて、気合を入れて持ち場に着く。
彼女は続けてオペレーターに、敵艦と光通信を繋ぐように指示を出す。
光通信を受けた敵偵察艦は、エティエヴァンの艦に中継するか指示を仰ぐ。
「公爵。前衛の偵察艦より通信が入り、敵の司令官フランソワーズ・ガリアルム王女が通信を求めているとのことです。お繋ぎしますか?」
その報告を受けた副官が、エティエヴァンに報告し判断を仰ぐ。
「フランソワーズ・ガリアルム王女だと?!」
通信の相手がフランだと聞いたエティエヴァンは、驚きつつもすぐさま通信を繋ぐように指示を出す。
こうして光通信は総旗艦ブランシュより、敵偵察艦に送られそこからエティエヴァンの乗艦する艦に送られる。
「久しぶりだな、エティエヴァン公爵。いや、賊軍の大将エティエヴァンよ」
画面に映し出されたフランは、司令官用のシートにふてぶてしく足を組みながら座っており、<Destruction(撃滅)>と書かれた洋扇で緩く扇ぎながら、開口一番にこう言ってエティエヴァンの怒りを誘う。
そして、彼女は更に挑発を続ける。
「大人しく領土に引き篭もっていれば、全てを失わずに済んだものを…。不当な特権への執着と実力の伴わない尊大な野心が、貴様を滅ぼすことになるであろう」
フランは一方的に挑発的な言葉を並べて発すると、そこで通信は切れてしまう。
「言いたいことを言って、一方的に通信を切るとは生意気な小娘め!」
フランの分析通りの尊大なエティエヴァンは、王女とはいえ年下の小娘に一方的に無礼な言葉を浴びせられ、怒りで震えていた。
副官はそんなエティエヴァンを宥めながら、自分の策を進言する。
「公爵閣下、怒りを収めてください。怒りで冷静な判断を失わせるのが、王女の目的です。それに、これは天祐ですぞ。王女をこの戦いで捕らえることができれば、人質として利用することが出来ます。これなら例え国王夫妻を逃したとしても……」
エティエヴァンはそこまで話を聞くと、副官の意図を理解した。
「なるほど。小娘を人質にこちらの要求を、国王に飲ませることが出来るということか」
「その通りで御座います」
「よし、全艦に通達! あの白い艦は拿捕するようにと、あとは殲滅せよ!」
「はっ!」
だが、副官が全艦に命令を通達する前に、オペレーターから報告が入る。
「前衛の艦より報告! 敵艦隊が攻撃を開始! いくつかの艦に被害あり、我反撃に移ると!」
こうして、ソンム星系の戦いの火蓋は切られた。
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