反乱勃発 05
艦橋に到着したフランは、オペレーターに状況を確認する。
「宇宙機雷の敷設状況はどうだ?」
「機雷敷設艦によって、現在99%完了しています。敷設は後1時間で完了予定です」
「二時間か…、何とか間に合いそうだな」
ルイはフラン達のやり取りを聞きながら、目の前に映し出されている投影型のディスプレイ・スクリーンを見ると、宇宙機雷の敷設状況が映し出されており、星系と星系を繋ぐ狭い回廊に、まさに壁のように敷設されていた。
(これが、ロイクさんの言っていた敷設している宇宙機雷か…。しかし、かなりの数だな)
「一体どれくらいの宇宙機雷を敷設しているのですか?」
ルイがフランに宇宙機雷の数を尋ねると、彼女は答えてくれる。
「ああ、約1000万個ぐらいだな、一年前から用意させていたのだ。その宇宙機雷を一週間前から、壁のように敷設させている」
「約1000万個ですか、すごい数ですね?!」
ルイはその数に驚きながら、敷設状況が映し出されているスクリーンを見ていると、壁のように敷設されている機雷原の真ん中に穴が空いていることに気づく。
「敷設している中央付近に空間があるようですが、これは主星から脱出してくる国王陛下達の艦が通り抜ける場所ですか?」
「流石ルイだな、その通りだ。そして、その父上達を追撃してくる反乱軍艦隊が通り抜ける場所でもある」
敷設された機雷の壁の中央に空けられた通路は、同時に通過できるのは十隻程度で各個撃破にはもってこいであった。
「あの狭い穴から出てきた少数の敵を包囲して、各個撃破していくわけですね? いや、そのような事は反乱軍も気付くはず……。当然、機雷原を迂回するか砲撃で機雷を破壊して穴を更に広げるか、別の侵入口を作るはず…」
ルイが悩んでいると、それを察したフランが作戦を話し始める。
「そうだ。よほどの馬鹿ではない限り、当然敵はルイの言った通りの行動を取る。その中で我々が一番取って欲しくないのは迂回だ」
反乱軍は今回の反乱の目的を、国を私物化する国王とその周りの奸臣達を成敗し国政を正す事と表明した。
だが、フランが事前に財政改革の内容とそれによって得た財政を、国民の福祉などに回していることを発表し内訳を公開していたために、国民には反乱軍の真意がわかっており支持しなかったのだ。
「反乱軍は、財政改革で奪われた特権や既得権益を取り返す事が目的であるために、民と軍の支持を受けていない」
そのような理由で彼らは国王夫妻を捕らえて、自分達を官軍とするしかなかった。
「故に、今回奴らは迂回するという選択を選ぶことは出来ない。何故ならば、迂回すればその分だけ余計な時間をかけることになり、ようやく手の届く所にいる父上達(という餌)に、距離を取られてしまうからな」
そう説明したフランは、ルイに悟られないように心の中で、このように考えている。
(迂回している間に冷静さを取り戻されて、迂回の時間と我らとの戦闘で父上達を捕らえる事が難しいと気づかれて退却されれば、追撃しても奴らを取り逃がすかもしれんからな。奴らには、この戦場にて私の名声の生贄になってもらわなければ困る)
更にフランは今回の作戦の為に、国王夫妻を護衛する艦隊に逃亡しながら、その航路に宇宙機雷による壁を数回敷設させた。機雷は壁状であるが層は薄く、迂回するよりに破壊した方が早いと反乱軍は判断し、機雷原が現れるたびに、破壊して進んできている。
護衛艦隊は機雷を敷設する時間で反乱軍に徐々に距離を詰められ、更にこの機雷原の狭い通路を通過する為に、時間がかかり遂に補足される事になった。という予定である。
「つまり奴らに与えられた選択は、速度を落として行軍しながら機雷原の狭い穴に攻撃を加えて拡張、それと同時に他の侵入口も攻撃でつくり、時間を掛けずに機雷原を突破するこの方法になるであろう」
フランは更にルイに作戦を説明をはじめた。
「我々は機雷原より、少し離れた所に艦隊を展開させて待ち受け攻撃する。そして――」
「王女殿下、偵察艦より通信。国王陛下を護衛する艦隊が、こちらに向けて航行してくるのを確認したとの事です」
だが、通信士の報告に中断され更にその護衛艦隊の司令官より入った通信で、作戦の解説は完全に中断される。
目の前に新しいディスプレイ・スクリーンが投影され、そこに護衛艦隊の司令官ユーリ・ヨハンセン代将が映し出された。彼は一年前に<プーレちゃん>の中の人から、主星星系の護衛艦隊司令官に突然抜擢され、それに伴い代将に任官されている。
当初、彼は辞退したがクレールの悪魔の囁きが始まった。
「この職務を無事に勤め上げて、そのまま功績で階級が少将もしくは中将まで上がれば、広報部部長へ任官する条件を得ることが出来ます。そうなれば我軍のマスコットを作り放題、そのキグルミ着放題ですよ」
「なん…だと…」
<マスコットを作り放題、そのキグルミ着放題>に、彼の心は揺れるがこのまま<プーレちゃん>の中の人を続けるのも捨てがたく判断に迷う。
迷うヨハンセンにさらに悪魔の囁きは続く。
「少佐も所属していてご存知だと思いますが、広報部は大事な役職ですが地味で功績が立てにくい為に、昇進が遅く人気がありません。よって、異動を申し出るものは多く、今の広報部部長もその一人です。この意味、聡明な中佐ならご理解いただけますね…」
クレールの話を聞いたヨハンセンは、彼女に質問をおこなう。
「ヴェルノン大尉、一つ質問していいかな?」
「なんでしょうか?」
「どうして、一介の私を艦隊司令官に任命しようとしているのでしょうか?」
「少佐が戦史研究室に在籍していた時に、提出した研究報告書を見たとある方が、少佐の才を惜しみどうしても首都星系の防衛艦隊司令官に任命したいと仰っているのです」
彼女の返答を聞いた彼は、今回のこの人事をこの様に推考した。
(<プーレちゃん>の中の人である自分を、いきなり首都星系の防衛艦隊司令官に任命でき、更に少佐から代将に任官できる人物がこの人事を裏で操っている。どのような目的かは今の私にはわからないが、少なくとも逆らっても良い事はなさそうな人物だろうな…)
彼は取り敢えず任官を受けることにして、嫌になれば軍を辞めればと思い任官を受ける返事をすることにした。
(それに、上手く行けば私の構想する黒いペンギンのマスコット、<ぺんモン>シリーズが実現できるかも知れない…)
彼はいろいろな意味でヤバい構想を、実現させようと考えていた。
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