迫りくる戦火 04
そして、物語は冒頭に戻る。
王立士官学校に入学して二年目、ルイが19歳、フランが17歳の7月初旬――
ルイは【ガリアルム王国】主星パリスに向かう宇宙船の中で、空いた時間を利用して小説を書いていた。
彼が宇宙船に乗っているのは、二週間前にフランが突然本国に戻ると言い出した事から始まる。
その日も、彼は自室で小説を書くためにパソコンと対峙し、文章を紡ぎ出そうと悪戦苦闘していると、突然ノックもなしに部屋の扉を勢いよく開け、フランが入室してきて彼にこう言ってきた。
「ルイ! 私はホームシックにかかったぞ! 今から、一時帰国する。勿論オマエも一緒だ。5分で支度しろ!」
とても、ホームシックにかかった人物とは思えない態度で、そう一方的に言い放つと彼女は部屋から出ていく。
流石の彼も突然の展開に「??」となり、フランの部屋に行くと彼女はキャリーケースに必要な荷物を詰めていた。
その様子を見てルイは、理由はどうであれフランが本当に帰国するつもりだと確認すると、自室に戻ると旅の準備に取り掛かる。
旅支度を済ませたルイが荷物を持って、再びフランの部屋にやってくると彼女の方も旅の準備を済ませていた。
フランは少し大きめのキャリーケースを引きずって、自室から出てくると外で待っているルイに話しかけてくる。
「さあ、いこうか」
「はい」
ルイは返事をすると、フランには重そうなキャリーケースと自分の荷物を持って、彼女の後をついていく。
フランはルイのその優しさに、やはり自分の目に狂いは無かったという思いから自然と笑顔になるが、彼に悟られたくないので洋扇で顔を隠しながら感謝の言葉を掛けた。
「ありがとう、ルイ」
「いいえ」
ルイは、当然といった感じで返事を返す。
17歳になったフランは年頃になったせいか、昔ほど彼に対する好意を見せる事に恥じらいを覚えるようになり、最近は露骨な好意の示し方はしていないと本人は思っていた。
だが、もちろん彼が他の女性と仲良くするのは、許さないというヤンデレ部分は残っている。
宇宙港に向かう車の中でルイはフランに尋ねた。
「フラン様。暫く旅行をするなら、士官学校に休学届を提出しなければ……」
「それなら、既に大使館の者に命じて提出するように命じてある」
フランのその返事を聞いたルイは……
(さすがはフラン様。ホームシックにかかっていても、冷静に手を打っている。それとも、以前から計画していたことなのか……。もし後者なら、この時期に本国に帰る理由は一体……)
透けるような白い肌を持った美しいフランの顔を横目で見ながら、彼女の考えを色々と推考していた。
そして、時は主星パリスに向かう宇宙船の中に戻る。
ルイは自分が書いた文章が表示されたモニターを見ながら、これからの事を考えていた。
(果たして、当初の目的通り軍を任期でやめて公務員、そして小説家になれるのだろうか…。フラン様がそれをお許しになるだろうか……)
自分を軍事面における片腕的存在にするために、わざわざ王立士官学校に編入させたのだから、普通なら辞めることなんて許可しないと考えるほうが妥当である。
(どうしたものか……)
ルイはモニターから天井に視線を移して、ため息を付きながら今後の事を考えていると、部屋の外が騒がしいことに気付く。
ルイは不思議に思い部屋の外に出ると、宇宙船の乗員が慌ただしく行ったり来たりしている。
「どうしたのですか?」
ルイは乗員の一人に話しかけた。
「たっ、大変です、ロドリーグ様! 本国で反乱が起きました!!」
「反乱!?」
反乱という言葉は、ルイはまさしく晴天の霹靂であった。
しばらく困惑したルイであったが、すぐさまフランの動向が気になり質問する。
「フラン様…フランソワーズ殿下はどこですか?!」
「フランソワーズ殿下なら、反乱の第一報を受けると超光速通信を使用するために通信室へ向かいました」
「そうですか。忙しい所、どうもありがとう」
(流石、フラン様。動きが早いな)
ルイは引き止めた乗員に礼を言うと、フランのいる通信室へ向かう。
彼が通信室に向かっていると、前方より通信を終えたフランがこちらに向かって歩いて来る。
ルイはフランと合流して早足で歩く彼女の後ろにつくと、歩きながらこれからどうするか質問しようとすると、彼女の方から話を切り出してきた。
「その顔を見るに、反乱の事は聞いたようだな」
「はい。それでこれからどうしますか?」
ルイの質問にフランは早足で歩きながら、冷静な表情を崩さずに淡々とこれからの行動計画を話す。
「もちろん、反乱を鎮圧する。その為にも、まずはソンム星系の惑星ア二アンへ宇宙船を向かわせる。そこに、この辺りの各星系の守備艦隊を集結させている。それと、合流する」
(通信室で、守備艦隊に集結命令を指示していたのか……)
ルイがそう推察しながら彼女の後を付いて歩いていくと、彼女は急に立ち止まってルイの方に振り向く。
「ルイ。もう少しで、幕が開くぞ。戦いの幕がな」
そして、そういったフランの顔は、戦いの前の高揚感に満ちていた。
(フラン様は、知っていたんだ……。この反乱が起きる事を……)
そのフランの表情を見たルイはそう直感する。
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