迫りくる戦火 03




 その頃、当のフランは体調不良と偽って王立士官学校を欠席し、大使館で超光速通信を使って、本国にいるクレール・ヴェルノンの報告と今後の行動の指示を与えていた。


「貴族達の土地返還状況はどうだ?」


【ガリアルム王国】の長年の財政難を危惧した国王シャルル・ガリアルムは、その財政建て直しの為にいくつかの財政改革令を出している。


 その内の一つが三年前に布告したのが【領地返還令】で、貴族は与えられていた領地の一部を除き、国に返還せよという内容であった。


 日本でいう【版籍奉還】に近いものである。


 五大有力貴族のロドリーグ卿、バスティーヌ卿、レステンクール卿が、素直に従った為に大半の貴族も従った。


 その為に、金が無くなりルイが士官学校に入ることになったのだが、それは表向き理由である。


 そして、勿論そのような自分達の特権を失う命令を聞かない貴族も当然存在した。


「五大有力貴族のエティエヴァン卿、スミスソン卿と、それに連なる貴族達は未だに布告に従わずに、自分の領地に引き籠もっています」


 クレールは冷静に端的に報告をおこなう


 中世なら権力と財力を持つ貴族達が、このような王令を受ければ反乱を起こしてでも勅令を撤回させるところであるが、今の戦争は艦隊戦である。そのために貴族達の財力で雇える私兵の数では、一国の艦隊数に匹敵できる数をすぐに揃えることは出来ない。


 貴族たちは、自分たちが見過ごせないぐらいの戦力を集めると、反乱鎮圧の名目で軍が派遣されるのが解っているために、派手に戦力を集めることが出来ずに、そのため三年も領地に引き篭もり、戦力を隠密に蓄えている。


 国王も内戦を望んでいない為に、武力に訴えることはしていないので、今のところは内戦は起きていなかった。


 従わない貴族達は、今回の財政改革で他の者達も不満を持って、反乱を起こすと思っていたが、実害を受けているのは特権を持っていた者達だけで、その者達から奪った財源は市民の福祉などに回している。


 実際に戦うのはその市民であり、それを元に戻そうとする者達の為に、命を賭して戦うはずなど無い。


「諜報部より【サルデニア王国】が、その貴族共と反乱分子に接触していると報告が入っております」


【サルデニア王国】は【ガリアルム王国】の南に位置する小国で、列強の【ドナウリア帝国】の保護国であり、百年前では国境で小競り合いをしていた相手である。


「そうか…。やはり貴族共に【サルデニア王国】が接触してきたか」

「はい、諜報部のフジュロル大佐からの情報です。間違いないでしょう」


「クレール、貴族共はどれくらいで事を起こすと思う?」


「はっ。小官が推察するに、我らに気づかれずに水面下で準備するとすれば、半年から一年は準備に要すると考えます」


「私の推測も貴女と同じだ。諜報部には、引き続き貴族達と反乱分子、それと【サルデニア王国】の監視を命じてくれ。あとマリヴェル博士に、新型艦の開発を急ぐように命じておいてくれ」


「はっ」


 クレールが最後に命令に応答してから敬礼すると、フランは通信を切った。


 そして、通信室で一人こう呟く。


「あと一年…、学生生活を楽しむとしようか…。では、手始めに私の居ないところでメアリーと楽しそうに話をしていたルイを問い詰めるとしよう…」


 フランはルイが帰ってくる前に、急いで自室に戻り彼が帰ってくるのを待つ。


 暫くすると彼が帰ってきて、フランの部屋の前に立つと扉をノックしてから、部屋の中で休んでいるであろう彼女に声を掛けてきた。


「フラン様、ルイです。お体の具合はどうですか?」


 彼の問いかけを聞いたフランは、部屋の外にいるルイに返答する。


「ルイか…、構わん部屋に入れ」


 フランに部屋に招かれたルイは、部屋の中に入ると彼女はベッドに体調が悪そうに寝転んでいた。


 フランはベッドの中で、いつルイを追求してやろうかと考えており、宛らベッドで赤頭巾を狙う狼のような気分である。


「フラン様、これはメアリーからのお見舞いの品でアイスクリームです。そしてこのプリンが僕の買ってきたものです。冷蔵庫に入れておきますね」


「ああ…頼む…。しかし、ルイ…。プリンってオマエ…私をいつまで子供扱いする気だ? 私はもう16だぞ…」


 そう言いながら、フランは横たわっていた体を起こすと、


「ところで、ルイ……。オマエ今メアリーとファーストネームで呼んだな…。いつの間にそんなに親しくなったのだ…」


 瞳孔が開いてハイライトが消えた眼で、ルイを問い質し始めた。


 赤頭巾を襲う狼タイムの始まりである。


(あの眼… 距離があるのに、凄く怖いですけど……)


 ルイが蛇に睨まれてカエルみたいに、部屋に備え付けられている小型冷蔵庫の前で怯えていると、彼女の追求は更に続く。


「あと、食堂で楽しそうに話をしていたな…。オマエは何だ? 可愛い女の子には、声を掛けずには居られんのか? そんなに女の子と話がしたいなら、私がいくらでも相手をしてやるぞ? さあ、話せ、ルイ先輩。因みに私は、小説は余り読まないがな… フフフ…」


(どうして、会話内容まで知っているんだ…。怖いから、もうお部屋に帰りたいです……)


 ルイが冷蔵庫の前で、迷子のキツ◯リスのように怯えていると、それを感じ取ったのかフランはこう言ってくる。


「ルイ。私は今体調があまり良くなくて、一人ではプリンも食べられないのだ…。食べさせてくれないか?」


 フランは洋扇で顔の下半分隠し、目線を彼とは逆方向に向けてそう言ってきた。


(何だ、結局プリンが食べたいんじゃないか…。やっぱり、まだまだ子供だな…)


“この妹のような少女に、兄代わりである自分が甘えさせてあげよう“と、ルイは鈍感主人公スキルをフル発動させ、せっかく勇気を振り絞ったフランの意思表示を理解できずにいる。


 だが、フランにとってはこのプリンを食べさせて貰うという行為は、ルイとの関係を一歩前進させた気がしたので良しとすることにした。


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