第13話 鋼の拳

隊長の眼前には、自身が下した命令通りに陣形を再構築した1輌の多脚戦車がロケット弾の炸裂から体制を立て直している途中のフィールドブレイズにめがけて突撃している。


「同じ手は食わねぇよ」


サイドステップをとっている暇はないと判断したリナはフィールドブレイズを横方向に受け身を取らせた。


そして立膝状態にあるフィールドブレイズの横に手頃な照明柱を発見したリナは即座にそれを引きぬいた。


一見にはただの柱であるが、フィールドブレイズがただ握ることによって意味を変える。


それは人にとっての鉄パイプ程度、あるいはそれ以上の武器にはなるように思えた。そうして、ただ”鉄パイプ”を構えただけのフィールドブレイズの姿にグーテンベルク達は狼狽した。


「っ……!」


隊長の焦りを部下に悟らせまいと、副官は部下たちに怒号を飛ばす。


「ただ棒を持っただけだ!怯むな!」


だがグーテンベルクの意見は違った。


「その”ただの棒”を武器にできるってのが、まったくどれだけのことか……」


は……?と聞き返した副官によそに、彼は独り言のように続けた。


「人のカタチをした兵器ってやつは、俺達が思っているほど木偶の坊じゃないんだよ」


マニピュレーターを備えた人型機動兵器の利点はまさにここにあった。専用の装備を与えられなくとも、ましてや、与えられた装備を喪失したとしても、人型機動兵器はその場にある様々なものを武器として転化することが出来る。


「よいしょぉぉぉぉっと!」


しかし、フィールドブレイズはそれを武器として振りかざすわけでもなく、地面スレスレを平行にスライドさせた。


多脚戦車の弱点とも言える脚を文字通りすくい上げたのだ。勢い良く車体の下に鉄パイプを滑らせていくフィールドブレイズ。


カコンカコンと小気味よく次々とへし折られていく多脚戦車の脚。


車輪を格納したまま地面にたたきつけられた多脚戦車は、車輪を展開させることもできないままに擱坐してしまった。

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