第3話 果てしない荒野

この世界は、それはもう混沌を極めていた。


そもそもの発端は、2002年に起きた旧首都直下大震災、とされている。


ちょうど澪地紗都音の生まれる2ヶ月ほど前のことだ。


その大地震は、かつて1000万都民が暮らしていた当時の日本の首都を尽く破壊したらしい。


関東平野の大部分の地盤は崩落、海の底へと沈み半円状の巨大湾を形成した。


経済と政治の基盤を一度に失ったこの国は、西日本へとその機能を移転せざるを得なかった。


このとき、フィールド重工の先代社長……つまりリナの父親の行動力は凄まじかったという。


もとより中小重機メーカーであったこの会社の製品は、国内各地の復興に大いに役立ったのだ。


いわゆる“災害特需”である。




それというのも、当時の日本国内は大地震の余波で多くの交通網が寸断されていた。


そんなときに役立ったのがフィールド重工が発売した脚式重機だった。


大地震によって崩壊した道路、不整地や不安定な足場での作業が強いられた現場において、従来の無限軌道はもちろんのこと、この脚式の重機や作業車両が大いに役に立ったのだ。


しかも、先代社長はそれらの脚式重機を破格値で販売した。


結果、国内はもとより海外においても脚式重機は爆発的ヒットを記録。


広く一般にも普及し、ここ10年は再開発の影響もあってか街中で脚式の車両を見ない日はない程になっていた。


無論、海外への輸出も増えたことにより、脚式重機特需は日本経済回復の主軸となった。


まさに日本復興の立役者といったところである。


……にもかかわらず、フィールド重工の売上自体はさほど伸びなかったという。


それこそが「うちが“中小”企業どまりである所以だ」とリナは語ったが、サトネにはどうもそこが引っかかった。


「それにしては、なんか……こう、言葉を選ばなければもう廃業寸前って感じに見えるけど……」


リナは苦笑いを浮かべた。


そう、まさにこの会社はいま存亡の危機に陥っている。

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