第10話 タイム・イズ・ジャストナウ

推進器、いわゆるスラスターという装備。


常識的には、搭載可能サイズまで小型化すれば推力密度が稼げず、また装備重量の割には大した姿勢制御機能を発揮しない。


そのため、無重力下ではいざ知らず重力下で運用する陸戦兵器に搭載するには、あまりに非現実的なものであると考えられていた。


しかし、フィールドブレイズほど徹底的に軽量化された機体重量と、二足歩行からくる重心の高さがあれば、推進器は非常に効果的な装置として機能し得る。


こうして残る問題は、推進剤自体の重量とその容積を収めるスペースに他ならない。


「ッチ、あんな手品に惑わされるな!着地時の脚部を押さえろ」


どのようなカラクリにしろ何度も使えるものではないと判断したグーテンベルクは、定石通りに敵の隙き狙えと命令を下す。


「ダメです、距離が遠すぎます!」


「体当たりでも何でも良い!とにかく、飛び込め!」


しかし、急ぎ着地点へ移動する多脚戦車を確認したフィールドブレイズは空中で姿勢を転換。


「SEFRキャパシター電圧正常値……にしてもバッテリーの減りはそこそこだな。RCTリミッターを10秒に設定っと」


そう言うと、リナは再びスラスターを推進器を作動させ着地タイミングを逸らせた。


「……いかん!止まれッ」


グーテンベルクの叫び虚しく、突撃した多脚戦車はその勢いをぶつける対象を失い、工場敷地と道路を隔てる外壁へと激突してしまう。


「おーおー、人ん家だと思って派手に壊してくれちゃって」


壁への正面衝突で擱座してしまった多脚戦車の横へ、フィールドブレイズは静かに降り立った。

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