第5話 そこに行くよ

「何度でも言うぞ。こいつはウチの会社の私有物だ。渡す気はないって言ってんだから、さっさとその物騒な連中を引っさげて帰ってくれ」


リナがそう言うと、フィールドブレイズはしっしと手で払いのけるような、いかにも人間臭い仕草をした。



彼女が搭乗しているフィールドブレイズの1号機には、パイロットが実際に行動せずとも頭で考えている仕草が思わず反映されてしまうという仕様が存在している。


これは搭乗者の意思を読み取ってロボットの動きに反映させる教導用E型コックピットによるものだ。


意思を読み取るといっても脳直のマン・マシン・デバイスとは違い、E型コックピットはパイロットの手脚に装着されたグローブ型のデバイスから筋電位を読み取って動作している。


この微弱な動きを増幅する形でロボットの動きとして反映させているのだ。


しかし、自身の数倍はあろうかという大きさの四肢を、高々1.5m程度しかない人間サイズの感覚で動作させると、そのモーションは瞬く間に破綻してしまう。


そういった事情から、E型の操縦デバイスは扱いが非常に難しいのだが、彼女はこれを「直感的である」という、ただそれだけの理由で愛用していた。



「嬢ちゃんも強情だねぇ。そこをひとつ頼むよ。これ以上ゴネられると少々手荒なことになっちまうんだが……」


グーテンベルクは、もはや譲る気はないのだろうなと半ば諦めつつ軽装甲車の助手席側の窓から、それとなく「一応の準備はしておけ」と僚車に向かってハンドサインを出した。


部下たちも「待ってました」と言わんばかりの士気を見せている。



「そりゃ、こっちのセリフだ」


リナの声もまた、やる気に満ちていた。


自慢のロボットを快く譲る言われも、大人しく引き渡すつもりもないし、ましてや力づくで奪われる気もない。


端から徹底的に抗ってやるつもりであった。



もっとも、初めてロボットに乗って暴れまわれるだけの真っ当な理由が出来たとも言えるこの事態。


ロマンを追い求める者として、多少の高揚感を覚えなくもなかった。


その高ぶりを知ってか知らずか、手脚のインターフェイスが読み取った信号は直接制御OSのソフトに伝わる。


するとフィールドブレイズは心地よいモーター駆動音を奏でながらファイティングポーズを取ってみせた。



「あらら、奴さんの方がやる気満々だわ」


グーテンベルクは「こんなことなら、強行突入でもしてコンテナごと押さえておくべきだったな……」と考えたが、今となっては後の祭りであった。

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